「やっほーエネドラッドげんき〜?」
オレが動けないこの部屋に、いつものようにひょこっと顔を出したのは、いつものアイツだった。
「あれ、雷蔵いないの?」
オレが何も言う前にキョロキョロしながら部屋に入ってきた。
「いいとこに来たな、馬鹿女。これはずせ」
邪魔なものがついた前脚をわかりやすいように振って見せると、冬華は何の警戒もなしに顔を近づける。
こいつ、このまま攻撃でもしたら死ぬよな。まあ、この格好じゃできねぇけど。
「バカって言ったほうがバカだよ〜。なにそれ、改造したの」
「ちげーよ、外すの忘れられたんだよ」
先ほどまで説明のために図を書かされていたのに、そっちの欲しい情報だけ手に入れたら満足して俺の脚にマーカーペンを括り付けたままいなくなりやがった。
「えー、ほんとにとっていいの?雷蔵に確認してくる」
「はぁ?確認いらねえだろ、ただのペンだぞ」
そこは警戒するのかよ。こいつの危機管理能力を心配するほどオレは優しくないが、こいつと付き合ってるあのデブには少し同情してきた。
「んーほんとっぽい。なんか書いてたの?」
「秘密だばーか」
「バカじゃないってば。ってかエネドラッドってそういうことも出来るんだ!かしこーい」
「馬鹿にしてんのか?いくつだと思ってんだよ」
いかにもガキをほめるような言い方がムカつくな。
「そーいえば、エネドラ何歳?」
「二十歳だよ」
「え?」
本気で驚いたと言った顔してやがる。そりゃあこの姿で二十歳って言ったって想像できないだろーけど、この前、映像でオレの本当の姿観たよな?
「え、やだ、年下?うわー、やだやだ」
返ってきた言葉は想像していたものと少し違った。
やだやだと言うのに合わせて首を振っている。相変わらずリアクションが大きいというか動きが多いというか。
「は?お前いくつだよ」
「え、私も雷蔵も21だよ」
「……」
「なんか言いなさいよ!」
「玄界のサルに年相応にみえるやつはいねぇのかよ」
俺が倒したチビもこいつも実年齢と釣り合わねえな。まあどちらかと言えば前者は見た目で、後者は中身の話だけどな。まあ、こいつは見た目も若干ガキに見えるから年下だと思ってた。
「よく若く見えるって言われる!エネドラは人間の格好だと大人っぽく見えるよね」
「『人間の格好』というか、あれが本当の姿だけどな」
「そうだった。じゃーね、私!雷蔵に用あるから!」
「あ、バカ。ペン外せって言ってんだろ」
会話するだけして、バイバイと手を振って部屋を出ていく冬華。
話の内容が少しそれたなと思ったら、もうこれだ。ほんと目の前のことしか見えてないような奴だな。
オレの最後の一言はあいつには届かないまま寂しく部屋に響いていった。