「あー、しばらく甘いものは無理。東春秋、焼肉行こ」
買ったばかりのコーヒーから立ち上る湯気を眺めながら、横にいる東春秋に語りかける。
今回は呼び出したりとか廊下で捕まえたとかではなく、偶然ラウンジで見つけた。
向こうが立っている横に勝手にきたのは私だけど。
「俺の金でとか言うんだろ」
「デートのお誘いとかじゃなければ自分で出すわ」
「別にそっちが奢ってくれたっていいんだぞ」
「き、聞こえないなぁ……」
東春秋からの返しを誤魔化そうとして、コーヒーに口を付けたことを少し後悔をする。
猫舌なんだよな。
しばらくの沈黙から私がまた口を開く。
「響子に行動しなきゃなんも変わらないて言われたんだけど」
「そう」
「もう少し興味持って……」
余りにも興味のなさそうな返事に悲しくなる。
「あの人が気付かなそうなことぐらいわかるだろ」
「う、まあそうだけど」
いつもの呆れた、と言った顔に何も言い返せない。
みんながいるところだから『あの人』と濁してくれる東春秋の優しさには感謝する。
「お、東さんと○○さん」
そう声をかけてきたのは諏訪だった。
さすがに年上に話かけるからか今日はタバコをくわえていない。
「諏訪じゃん、ちゃんと単位取れてる?」
「太刀川と一緒にしないでくださいよ。雷蔵がなんか言ってたんすか」
諏訪の口から出た『雷蔵』の言葉に反応して、私の表情が変わる。
「寺島雷蔵許すまじ」
「あいつなんかしたんすか……」
「いや、別に彼女とリア充してただけ」
ちょっと諏訪が引いてしまったので、もとの調子に戻す。
「あー、あのカップルほんとに仲いいっすもんね」
今度は諏訪の表情がちょっと歪む。
こいつも被害にあってるんだな、と思って同情する。
「被害者の会設立したいレベル」
「確かにこの前一緒に焼肉いったけど相変わらず仲良しだったな」
東春秋だけちょっと違った同意をした。
「えー!焼肉行ったの?私も行きたいー!」
「奢らないからな」
「……他人の金で焼肉が食べたい」
「○○さんよくタイムラインで呟いてますよね」
「日頃の心の荒みだよ……ミュートにしてくれ」
「社会人お疲れさまだな」
「そう思うんなら奢ってくれていいよ」
私と東春秋の会話のラリーを諏訪が見守っているとまた新たな声がした。
「あれ、なんの集まりだ」
類は友を呼ぶように隊長は隊長を呼ぶのか、それとも麻雀仲間という点では類は友を呼んだのか。
振り向いた先にはA級2位チームの隊長がいた。
青ざめたバスルームで愛を語る