When 2 R in love


 
「仗助くんはまだ帰らないの?」

「ああ…。億泰のヤツ、まだ掃除が終わってねぇみたいで来ないんだ」

「あ、そっか。いつも仲いいね。
…それじゃあ、また明日ね。バイバイ」

「じゃーな。気をつけて帰れよ」


隣の席の子が教室を出て行く。
彼女に言った通り、億泰はまだ来ねぇ。

放課後、掃除が終わると大抵はアイツが俺の教室に来て、それから二人で一緒に帰る事になってんだけど、今日はちょっと遅い気もすんな…。
おせーなーと思いながらも、校庭を走り出すサッカー部のヤツらを窓からぼんやりと眺めていた。
カーテンが風になびいて、少しだけ視界を遮る。
今日はちょっと蒸し暑かったから、窓から入る風が心地いい。


あれから二日経ったけど、名前さんからの連絡は無い。

意図的になのか、忙しいからなのかは分からないけど。

名前さんにスッゲ会いたいんだけど、俺から連絡してもいいのか分かんねぇし…。


…それとも、名前さん…露伴と一緒にいるから、連絡出来ないんだろうか。


じり、と胸が焦げ付くように痛んで、いたたまれなくなってくる。



そんなことを考えながら外を見下ろしてたら、校庭の横を仲良さそうに帰る二人を見つけた。
あいつ…隣のクラスのヤツだ。いつの間に彼女が出来たんだよ…。

あーあ…。いいよなーっ。

同じ学校に好きな人がいるヤツは。

いつでも会えるし、一緒に帰ったり出来るし…。


名前さんに会いたい。すっげぇ、会いたい。


『私も、仗助くんのことが好き』


…あんなこと言われて浮かれちまったけど、名前さんも、俺の事…こんな風に会いたいって思ったりしてくれてんのかな…。



だいたい、俺って…名前さんにとって、何?



ヴーッ…ヴーッ…

ポケットの中で震える携帯を慌てて取り出すと、画面には億泰の文字が浮かんでいた。

一瞬、名前さんからかなって期待して、胸がドキン、としちまった。

悪い、億泰。億泰って分かって、ちょっとがっかりした。


「仗助、助けてくれ…」

「どうした?!」


億泰の声は悲壮感に満ちていた。
何だよ。スタンド使いにでも会ったのか??


「今トイレにいるんだけどよ、その…出ねぇんだよ」

「……ハァ??」

「途中で止まっちまった…」


出ないとか止まるとか、何か嫌な予感がするが一応聞いておこう。


「…止まったって、何が…」

「何がってお前…「大きい方」が途中で止まっちまった、っつってんだよ!!」


何だそれ。スタンド使いに出くわしたとかじゃないなら、そんなに緊急を要することでもねーだろ。


「…それで、何で俺に電話してくんだよ…」

「とりあえずよ、こっち来てくれよ」

「ええーッ?! 何でだよ」

「だってよ、俺は暫くこっから出られそうにもねぇしよ…」

「えーっ、…もう…仕方ねーな…。どこのトイレだよ」

「3階のトイレ。一番奥の」

「…分かった。ちょっと待ってろよ」

「サンキュッ! 仗助!!」


俺は帰り支度をして教室を出た。
廊下を歩いて億泰のいるトイレに向かう。
掃除も終わって生徒達が減って来たせいか、トイレは静まり返っていた。

一番奥の個室から聞こえる、溜め息以外は。


「フゥゥーーッ。 ハァアーーーッ…」

「…おい、億泰…?」

「仗助?! 来てくれてありがとよ!!」

「それはいーけどよ…。だ、大丈夫かよ…」

「大丈夫じゃねーよ。途中で止まっちまったせいで立ち上がる訳にもいかねーし…。
こんなに辛いんならよ、焦らず、家に帰ってからゆっくりトイレに行きゃー良かったよ…。ッウ…!!」

「とりあえず落ち着けって。…その、まだ…出そうにないのかよ…」

「全然無理。うんともすんともしねぇ」


何うまいこと言ってんだよ…ってつっこもうかとしたけど、今の億泰は本当にキツそうで笑えないからやめておいた。


「なあ、億泰。そんなに思い詰めないでよ…何か他のことでも考えたらいいんじゃねーの?」

「他のこと? 他のことなんて、俺、思いつきもしねーよ。トイレのことしかよお…。
…あ、だったら仗助、お前何か話してくれよ。俺、聴いてっからよ。
人の話聞いてたら、注意がそっちにそれてスッと出るような気がするぜ」

「えぇーっ?! 何かって…何話せばいーんだよ。急に言われても、何も思いつかねーよ…」

「何かねーのか? 何でもいーからさぁ…。
あ、そーだ仗助。お前、何か悩み事とかねーの?」

「…悩み事?」

「ああ! 何か悩んでることとかあんならよ、この際、この億泰くんに話してスッキリしちまいなって」

「悩み事、なぁ…。っはぁ〜〜っ……。」

「何なに? 何か悩んじゃってる訳? 仗助くん」


悩み事っていうか…

トイレのことしか思いつかない億泰のように、今の俺は名前さんのことしか思いつかねぇ。


「…あぁ…。こんなこと、マジでお前にしか言えねーけどよ…」

「どうした、仗助」 

「……ふぅ」

「何だよ、早く言えよ」

「……それじゃあ言うけどよ…。
……。億泰、…俺……名前さんに『好きです』って言っちまった…」

「!! なにーーーッ??!! ママママジで???」

「…ああ、マジで。
『名前さんが、露伴先生と付き合ってるのは分かってるんですけど』…って」

「ひえーーーーーっ!!! ついに言っちゃったの?? 仗助くん!!
…んで? 名前さんは何って??」

「……『私も好き』…って…」

「!!!! ちょ、マジで???!!!
何でこんな時にそんな話すんだよォ! 驚きすぎて、出るもんも出なくなっちまうだろーがよォ!!」

「おっ、お前が何か言えっつったんだろ!?」

「言ったけどよー。まさかそんな爆弾抱えてたなんて知らねーからよーおーっ。
ああ…スッゲ聴きたいけど、出なくて辛い…どうすればいーんだよ、俺…!!」

「……。話すんじゃなかった…」


個室の中から聞こえる億泰の慌てふためく様子で、俺は自分のした事の重大さがようやく身に染みて理解出来た気がした。



 

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