ふしぎなくすり




「もうっ…どうして、あんたは…」

サクラは頭を押さえた。

つい数分前のこと。
この日は猛暑だった。
熱中症で運ばれて来る患者が多く、その治療をしていたサクラは、やっと休憩時間を取ることができた。
研究で使っている部屋で一休みしようと、よいしょと椅子に座ったと同時に、部屋の扉が開いた。

「あーつーいー…!」

ナルトだった。

「サクラちゃ〜ん、だるい、力が入らない、疲れるってばよ〜!」

そう言って、足をもたつかせて近寄ってくる。
その動きはまるでゾンビだ。

暑くて、疲れているのはこっちもだ。
そう思い、サクラはイライラした。
部屋に備え付けられている冷蔵庫から「これを飲め!」と奇妙な色をした液体が入った瓶を取り出した。

その色を見て、ナルトはギョッとして固まった。

「サ、サクラちゃん、なんだよ、それ?」

「医療班で開発されたばかりの栄養剤よ。疲労回復、睡眠障害解消!作るのに苦労したんだから。こんな色だけど、なかなか効くわよ」

自信満々の笑みでナルトに瓶を差し出した。
ナルトは首を横に振り、サクラをすり抜け、勝手に冷蔵庫の中を漁り出した。

「お!美味しそうな色の栄養剤もあるってばよ!」

喜んで取り出した瓶の蓋を開け、ナルトはそれをイッキ飲みした。

「勝手に漁るな!…というか、飲むな…!吐きなさい!」

と怒るサクラだったが、その液体はすでにナルトの腹の中だった。

ナルトの喉がゴクンと鳴って間もなく、白目になってナルトは突然バタンと倒れてしまった。
慌てて駆け寄ったサクラ。
転がった瓶を拾い、ラベルを見て彼女の目は大きく見開かれた。

「失敗作につき、処分」

(誰がこんなもの入れたのよ!!)

と憤るが、冷蔵庫の中に入れたのは他でもない自分だったと思い出し、溜息を吐いた。

そこへヒナタが入ってきた。
薬草を届けに病院へ来ていて、たまたまサクラたちのいる部屋の近くを通っていて、物音に気が付いたのだ。

ヒナタは床に伸びているナルトを見て、仰天した。
事情を聴いて、サクラと共にナルトを介抱することになった。
サクラは解毒剤を持ってくる、と言って出ていった。

「ただし、決してナルトを起こさないこと。目を覚ましたら大変なことになるから」

「う、うん」

理由は分からないが、取り敢えず専門家のサクラが言うのだ。
起こしては不味いのだろう。
そっとうつ伏せになっているナルトの顔を息がしやすいよう、横へ向けた。

床の埃の所為か、ナルトがくしゅんとくしゃみをした。
その衝撃でナルトは目を冷ましてしまった。

(ど、どうしよう!起こしちゃった!!)

ナルトは目が虚ろのまま、ゆっくり起き上がった。
慌てているヒナタはどうしたら良いものか混乱した。
そして、ナルトがゆっくりヒナタを抱きしめて、今度は思考が停止した。

何が起こっているのか、分からない。
ヒナタは意識が飛びそうだったが、なんとか保つことができた。
心臓がバクバク鳴り、それでもヒナタは声を絞り出した。

「ナ、ナルトくん、大丈夫?」

「にゃ〜♪」

顔を自分にすり寄せながら、ナルトは猫の声真似をした。
悪ふざけをしているのだろうか。
それとも薬の所為で可笑しくなっているのだろうか。

もう一度、ヒナタはナルトの名前を読んだ。
しかし、返ってきた言葉はまたもや「にゃ〜♪」だった。

まるで猫だ。
いや猫そのものになってしまったようだった。

「ナルトくん、どうしたの?ねぇ?…そうだ!九喇嘛さん!」

ナルトの中にいる九尾・九喇嘛に、ナルトはどうなってしまったのか、問いかけてみた。
しかしすぐに反応はなく、ようやく返ってきた言葉は……

<に゛ゃー…>

尾獣にまで影響する薬だったのだろうか!?
鏡があれば、間抜けな顔をした自分を見ることができるだろう。
ヒナタはほとほとに困った。

サクラはまだ帰ってこない。
ヒナタは取り敢えず、ナルトを引き離してベッドに寝かせようと奮闘した。
ナルトの脇を支え、ベッドに引きずるように運んだ。

「よいしょっと」

座らせることには成功した。
しかし、突然ナルトに身体を強く引き寄せられ、バランスを崩してしまった。

ぱちっと瞬きをして、ヒナタはナルトの顔を下から見上げる状態にいることに気が付いた。
押し倒されている状態だった。

パニックになって、逃げ出そうともがいたが、ナルトの方が力が強く、身体の自由が効かない。
射抜くような青い瞳にドキッと胸が高鳴り、ヒナタは完全に動きを止めてしまった。
身体の全機能が石のように固まってしまい、ナルトの瞳から目線を逸らすこともできない。

ナルトは、四つん這いになっている体制を徐々に崩していき、ヒナタを抱きしめた。
彼女を逃がさないよう、両腕でしっかり固定し、先程と同じように顔をすり寄せた。

(恥ずかしいよ…)

涙を目に一杯に溜めて、ヒナタは切なくナルトの名前を呼び続けた。

「ナルトくん、やめて」

すっと顔を上げ、不満そうな顔をヒナタに向けた。
やっと気が付いてくれた。
だが、その思いは間違いだったようだ。

ナルトはヒナタの耳元に口を持っていき、そっと息を吹きかけ、

「にゃあ…」

と、低い声で鳴いた。
とうとう耐えきれなくなって、ヒナタは意識を手放した。


目を開けると、サクラがサイドの椅子に座ってカルテを見ていた。

「あ、気がついた?」

と心配そうにヒナタを覗き込んだ。

ヒナタはがばっと起き上がった。

「サクラさん、ナルトくんは!?」

サクラは眉間に皺を寄せ、床を指差した。
彼女の指先を目で追うと、殴られてたんこぶを頭にこさえているナルトが床にのびていた。

「戻って来たら、ナルトがヒナタを襲っていたでしょ?ぶっ飛ばしてやったから、安心して」

確かに襲われた。
しかし、それは恐らく薬の所為であって、ナルトの意思とは関係のない行動だったに違いない。
ヒナタはそう思った。

「サ、サクラさん。ナルトくんはもう大丈夫なの?にゃーって、猫になっていたけれど…」

「猫?甘えていただけでしょう?」

「わ、わたしに甘えるなんて…ナルトくんはしないよ。それより、九喇嘛さんも、にゃーって…。あの薬は、猫になってしまうものだったの?」

「猫になる薬?そんなものないわよ」

「え?でも、失敗作を飲んだって…。なるべく起こさないようにって」

「あれは、気絶した後、目眩や吐き気を引き起こしてしまうものだったの。意識がない間に、解毒剤を投与すれば症状がすぐ収まりやすいの」

「じゃあ、抱きついて、すり寄って来たナルトくんは、一体…?」

「さぁ?」

首を傾げて、サクラはナルトと資料を見比べて始めた。
ぶつぶつ呟きながら、サクラは何かを検証しているようだった。
「何で効かないの」や「…順序が違う」など言っているが、意味が分からない。

(え?え?どういうこと…!?)

状況を把握できていないヒナタの様子に、サクラは苦笑した。

「ちなみに、あの薬には媚薬や惚れ薬とか入っていないわよ?」

「へ…?」

間抜けな声を出したかと思うと、ヒナタは顔を一瞬にして真っ赤にした。



end...???




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