あたたかい未来(3)



5人はそのままリビングへ移動した。
ソファにヒナタを座らせ、ナルトもその隣にどかりと座った。

3人の教え子たちは、ナルトの様子をじろじろ見ながら、それぞれ好きな位置へ腰を掛けた。
アズキは向かい側のソファへ、ヤイバは床へ、イガは離れた食卓テーブル用の椅子へ、それぞれ座った。

「イガ君、そんなに離れた位置にいないで、こっちにいらっしゃい」

ヒナタが優しく声を掛けると、イガはものすごい勢いで首を横に振った。
彼は、ついナルトをからかってしまうのだ。
そこは自覚している為、口を出してもすぐ逃げられるよう、構えている。
だが、「黄色い閃光の二代目」を名乗るナルトには、ほぼ通用しないのだが。

「さてと…。お前ら、その荷物はなんだってばよ」

よく見れば、イガが肩から下げていたボックスもそうだが、アズキが背負っているリュック、ヤイバが手からぶら下げているビニール袋と箱と、荷物が多かった。
ヤイバはあまり表情を表に出さないのだが、珍しくにっこり笑った。

「何って、先生のしゅ」

「ヤイバ君待って。ナルト先生、ヒナタ先生にまだ言っていないようなの」

イガが持たれていた椅子ごと倒れそうになった。
慌てて体制を整えて、アズキを見て、ナルトを凝視した。

「マジかよ。先生、なにもったいぶってんだよ」

ナルトは慌ててヒナタから目を逸らした。
ヒナタはじーとナルトを見つめた。

「さぁ、話してもらいましょうか。皆が知っていて、私が知らないことを」

(ヒナタ先生、怖い)

微笑んでいるが、目が笑っていない。
さらに白眼である為、何かを見透かされているような感じがして、さらに恐怖を感じる教え子たちだった。

背筋が凍るような気配を感じて、ナルトは背筋を立てた。
そして、咳払いをして、ヒナタへ向き直った。
畏まった態度に、ヒナタもその固くなった雰囲気に当てられ緊張してしまった。

嬉しいことがあったはずなのに、どうしてこうまで緊張するのだろうか。
本当は、残念なことがあって、それを隠そうと明るく振舞っていたのではないか。
見つめ合ってもしばらく何も口にしないナルトに、不安を抱いていった。

心臓がドキドキする。
冷や汗が垂れる。

(どうしたの?ナルトくん……)

そっと、ナルトがヒナタの右手を両手で包み込んだ。
優しく、慈しむように、何度も、何度も、撫でた。
柔らかい眼差しを手の先に向け、目を閉じた。動作一つ一つに思いを込めるように、目を開き、ナルトはヒナタの目をしっかり見つめた。

「あのな、ヒナタ…」

グッと気持ちを噛み締めるように、言葉を一言、また一言丁寧に紡いでいった。

「正式に、大名から火影就任令状が出たんだってばよ」

暫く間があった。
ヒナタの目が大きく見開かれていった。

「…本当…に?」

「ああ。すぐっていうわけじゃねえけど…。引き継ぎやなんやらで、10月くらいになるらしい」

驚き固まっている表情が次第に困惑へと変わっていった。
思わず両手で口を覆い、信じられないとでもいうように、目を潤ませた。
口をわなわなと震わせて、言葉が出てこないようだった。

その様子から、彼女がどれだけ喜んでいるか容易に知ることができた。ヒナタの反応に満足したナルトは、満面の笑みでヒナタを抱き締め、彼女の腹をそっと慈しむように撫でた。

「その頃にはもうこいつらは生まれていて、だいぶ大きくなっているよな」

お腹の中の愛しい我が子達の誕生が待ち遠しくて仕方がなかった。

「そうね…」

ナルトの手の甲に自分のそれを添え、潤ませた目のまま柔らかく微笑んだ。
はらりと、ヒナタの目から雫が一滴流れた。

「おいおい、泣くことないだろ」

「泣かないでいられないよ。おめでとう、ナルトくん」

ちゅっとナルトの頬にキスを送り、頭を肩へ預けた。

「ありがとう、ヒナタ」

ナルトも頭をヒナタの方へ寄せ、髪にキスを贈った。

こんなにも幸せでいいのだろうか。
幸せすぎて現実と思えず、一抹の不安を感じた。
それを敏感に感じたヒナタが、ナルトの頭を優しく撫でた。

(ヒナタには、何でもお見通しだな)

彼女の前で格好いい姿を見せたことかあっただろうか。

「情けないところばかり見せて、頼ってばかりで、迷惑しか掛けてねえ」

時には優しく、時には厳しく、自分を支えてくれた彼女。

「でも、傍に居てくれて、心からありがとうって言いてぇ」

ヒナタの身体をそっと離し、彼女の目線の位置に合わせた。

「ありがとうございます、ヒナタ」

人から見れば他人行儀な言葉かもしれない。
しかし、「ありがとう」だけではこの想いを伝えきれない。

「…こちらこそ、ありがとうございます、ナルトくん」

ナルトの喜びと、感謝の気持ちは、ヒナタにはちゃんと伝わっている。
お互い喜びに浸りながら、どちらかとは言わず、ゆっくり顔を近づけていった。

「あのー、俺ら居ること、忘れていませんかー、お二人さん?」

イガが呆れたように、ナルトとヒナタの間に割って入った。

「おう、居たのか、イガ?アズキとヤイバとは別々だったんだな」

ナルトはムスッとした顔でイガに言った。

「ひっでぇ!先生!俺だけ除け者って!」

わーわー騒ぐイガを余所に、アズキは二人のキスが見られなくて残念そうな顔をし、ヤイバは目のやり場に困って目をグルグル回していた。

雰囲気に任せていたことを恥ずかしくなって、ヒナタは頬を染めた。
気を取り直して、コホンと咳払いをした。

「はいはい、漫才はここまでにして、ご飯にしましょうか。今日は張り切らないと!…おかず買ってこないと足りないかしら」

「ヒナタ先生、安心してくれよ!材料ならここにあるぜ!」

イガがボックスの蓋を開けた。

「このスープ、お袋から!栄養満点だからお子さんにも良いだろうって」

イガが、ボックスから鍋を取り出した。
「温め直して来るっ!」と言って、キッチンのコンロへ鍋を持って行った。

「オレからは、ここに来るまでの買い出しのやつと、あと手作りじゃなくてスミマセン」

そう言って、ヤイバは控えめに袋の中から肉やミンチの団子、箱からケーキを出した。

「私も家庭菜園の野菜と、あと買ってきたものですけど」

アズキがリュックの蓋を開けると、そこからは、玉ねぎやピーマンなどの野菜や調味料、その他の具材が出て来た。

「お前ら、解散してすぐに集めたのかってばよ」

驚いた表情でナルトが訪ねると、鍋に火をかけ終えたイガが近寄ってきた。

「うーん、そうでもないっすよ。外食する予定だったけど、ナルト先生のことだから、ヒナタ先生が心配だ〜ってドタキャンするに決まっていると思って」

「…で、どうせ中止になるなら、先生んちで食事会してしまえばいいとなり」

「事前に、食材の確保、お菓子の予約もしていましたー!でも、まさか只の食事会がナルト先生の火影就任祝いになるなんて、思ってもみなかったです」

3人並んで立ち、ナルト達と向き合った。

「就任祝いなら、もっといろいろ準備しないといけないけど、今回はこれでごめんな!先生。改めて、火影就任おめでとーうございます!」

「おめでとう、先生」

「おめでとうございます!ナルト先生!ヒナタ先生」

揃って一礼をして、3人は満面の笑みでナルト達に笑いかけた。

「お前ら…」

「みんな、ありがとう…」

まさかのサプライズに驚いたが、彼らの想いがとても嬉しいと感じたナルトとヒナタ。
涙ぐむ2人に、3人は「やったね」と喜び、そくさくとそれぞれ行動し始めた。

「さてと、先生達はのんびりしていてください。準備は私たちがするから!」

「台所、お借りします」

アズキが早々と台所へ駆けていき、ヤイバが一礼してその後を追った。
短い悲鳴が聞こえたかと思うと、アズキが慌ててコンロの火を消すところだった。

「おわっ、悪りぃ!アズキ」

イガが足をもたつかせながら、2人の傍に行き、鍋の中身を確認した。
調理に取り掛かる彼らの姿を、離れた位置から眺めながら、ナルトはヒナタの肩をそっと抱いた。

「幸せだな」

「うん、幸せだね」

窓から風が入ってくる。
夏の特有の虫暑さが、このときだけ心地良く感じられた。

まるで、過ぎた春を思わせるあたたかさに、胸一杯になり、ナルトとヒナタは微笑み合った。
そと手を重ね、ヒナタのお腹に当てた。
もうすぐ、生まれる赤ん坊達に、このあたたかい幸せを分け与えるように…。


end...



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