本心恋心(10)



群衆から離れた静かな場所で、ナルトは目を閉じ戦争が終わるまでのことを思い出していた。
宴の輪に加わって一緒に喜びを分かち合いたかったが、ナルトはどうもその気になれなかった。

この戦争で多くの命が失われた。
その中には、信頼していた仲間も含まれていて、思い出すたび胸が痛んだ。

師匠や兄弟子が望んだ世界に足りないものの正体も分かった。
お互い信じ合うこと。
相手の本質を見るということ。

九喇嘛と心が通じ合うまで、尾獣は己の中に救う禍々しい力だと思っていた。
しかし、彼らにも心があり名前があり、一つの生きる命だった。

それに気が付いたとき、心の中で何かが弾けた。
外見、言葉、行動、上辺では本当にそのものの本質を見ることができない。

忍びの世界もそうだ。
他の里の忍びだから仇だとレッテルを張ったり、人柱力だからと恐れられたり…。
その人物を見るまで、言葉の印象だけで判断している。

自分が木の葉の里の住人から冷たい目で見られていたことも、人々が自分を「化け狐」と見ていなかったからだ。
そして、ナルト自身も里の人々のことを知ろうとしなかったからだ。

ふと、強い意志の目を持つ少女の姿が頭の中に浮かびあがった。
彼女は、アカデミーの頃から自分を真剣に見ていたようだった。
他のアカデミー生が軽蔑した目で見る中で、彼女だけが優しい目で見守っていてくれていた。

あの頃のナルトには、その目の意味を理解できなかっただろう。
しかし、暁や戦争の経験から、彼女には幼い頃から物事の本質が見ることができていたのではないかと、思う。

ナルト自身、人が理解し合うには、相手を信じることが重要だと確信したのはつい最近だというのに、彼女はずっと昔から人を信じる大切さを信じていた。

なぜ彼女は自分が弱ていることを理解してくれるのだろうか。
なぜ自分は彼女に弱っている姿を見せているのだろうか。

その答えがもう少しで掴めそうな気がした。
不思議な暖かい目を思い浮かべるだけで、心が落ち着いた。
凛とした強い瞳が勇気を与えてくれた。

彼女ともう一度会って話せば、それが分かるかもしれない。
ナルトはゆっくり目を見開いて、まだ星が瞬いている東の空を見上げた。

下の方でサクラがとぼとぼ歩いているのが見えた。
ナルトはどうしたのだろうと、覗き見ると、どうも彼女の様子が可笑しいことに気が付いた。
サクラが向かおうとする先を見ると、ナルトもよく知る少年が佇んでいた。
きっとサスケの元へ行こうとしているのだろう。
しかし、彼女の足が完全に止まってしまったのを見たとき、ナルトは思わず飛び降りていた。



「なんでもない」という彼女は言葉とは裏腹に、サスケと話し合いたいと目で訴えていた。
しかし、どこか怯えているようで、ナルトに何かを期待しているように感じてしまった。

彼女に頼られることはとても嬉しかった。
だが、もうその期待に応えることが難しいと感じる自分がいることをナルト自身は自覚していた。

(ごめん、サクラちゃん…)

長い初恋だった。

(告白されたとき、ドキドキした)

しかし、その言葉は空虚なもので、本心は虚ろの向こう側にあると気が付いた。

(オレはサクラちゃんのことが好きだ)

明るく可愛いところ。
賢いところ。
少し気に食わないが、サスケが好きなところ。
力が強いところ。

(“仲間”として)

共に戦うと誓い、隣に立ったときの力強い目を見たとき、頼もしいと感じた。
サクラとサスケと並んだとき、昔の第七班が戻ってきたと感じて嬉しかった。

しかし、時間の流れは残酷なもので、昔のままの第七班ではないのだ。
サスケは復讐の先に何かを見出だしたのかの様子になっているし、サクラは今や綱手二代目と言われるほど実力者になった。
そして、ナルトは尾獣たちと心を通わせることのできる人柱力。

(もちろん、サクラちゃんのこと守りてぇよ。でも、サクラちゃん以外にもっと“知りたい”と思う奴がいるんだ)

彼女のことを想うと胸が締め付けられた。
しかし、ナルトはそれに耐えサクラを抱きしめた。

(…サクラちゃんが幸せになるなら、全力で協力する。それが初恋した側なりのけじめだってばよ。…だから…)

これが最後の我が儘だ。
もうこれから先、彼女を抱きしめることは叶わないだろう。
新しい一歩を踏み出す前に、心の柵を解くために、ナルトは今までの想いを腕の力に込めた。

ふと感じたことのあるチャクラが後ろで揺らめいた。
サクラに気が付かれないよう、仙人モードに切り替えると、その正体が判明した。

冷や汗が額から流れた。
見られた。
見られたくない相手に、今の状態を見られた。

慌ててサクラを引き離した。きっとサクラに不自然に思われたに違いない。

今、自分は酷い顔だ。
彼女を想い続けてきたというのに、その気持ちは既に別の相手に向けているのだから。

いや、それを考えている暇はない。
早く“彼女”の誤解を解かなくてはならなかった。

サクラが一歩を踏み出すのを見届けて、ナルトは踵を返し“彼女”の元へ走った。


すぐに彼女の後姿を発見することができた。
背中越しで顔の表情は判別つかなかったが、泣いているように感じた。
胸が締め付けられ、ナルトは息が詰まった。

追い付きそうになりながらも、どう言い訳していいか思い浮かばなかった。

いや、その前にどう彼女にこの想いを伝えたら良いのか分からなかった。

悩み立ち止まってしまった間に、ヒナタの姿を見失ってしまった。
再び仙人モードになり、チャクラを探ると、近くに父とカカシの気配も感じ取ることができた。

一体、なぜ2人がヒナタと一緒にいるのか。

カカシのチャクラが離れ、父とヒナタが移動することが分かった。
ヒナタの乱れたチャクラが徐々に落ち着いていくのが感じ取ることができた。
彼女のチャクラが穏やかになるにつれ、ナルトのチャクラは荒々しくなっていった。





  index  

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -