本心恋心(7)



戦争が終わった喜びの中で、一族から、目まぐるしい成長だと讃えられた。
皆が恐れ、尻込みしている中で、先陣を切って声を上げたその勇気は、内気な性格を変えたというのだ。

しかし、ヒナタは憂鬱だった。
混乱が落ち着けば、いずれ従兄弟の死の原因の所在を問い詰められるだろう。
あのとき、彼を守るために必死だった。

ペインの時も、あのときも、彼のためなら、命を投げ出したって怖くないと思っていた。
自然と体が動いた。本能的に盾になっていた。

しかし、その行動が大好きだった従兄弟の死に繋がるとは考えられなかった。

いつまでも感じない衝撃。
背後の生々しい音。
そして、飛び散る鮮明な赤い血。

光景は目を閉じればハッキリ思い出すことができ、気が緩むとすぐに思い浮かんでしまう。
従兄弟は、死んではいけなかった。
彼は、一族の才能に愛された存在だ。
落ちこぼれの自分より先に逝ってはいけなかったのだ。

居心地が悪くなり、ヒナタは風当たりの良さそうな場所まで出張ってきた。

人気のない岩の影から、男女の話し声が聞こえた。
元々、野次馬根性は無い方だが、この時ばかりは気になって岩場の陰から様子を伺ってしまった。

トクリと胸が飛び跳ね、恐る恐る除いてみて、ヒナタはひどく後悔した。
ヒナタの目に飛び込んできたのは、ナルトとサクラだった。
しかも、ナルトがサクラを抱きしめていた。

そうなる関係になりそうだと思っていた。

四代目の「彼女」との問い掛けに、「そうだ」と彼が言ったときから、いつかはこうなると分かっていた。
しかし、諦めず一緒にいたい想いを伝えようと決心していた。

彼のあの愛しそうな背中と、これまた愛しそうに抱き締める腕を見てしまい、ヒナタはただ呆然とするしかなかった。
胸が締め付けられ、心臓が早打ちする。
呼吸が荒くなり、頭が真っ白になった。

「サクラちゃん…――」

「ありがとう…――」

話の内容は断片的にしか聞こえない。
いや、聴きたくないのかもしれない。

心に広がる黒いモヤを抑えながら、ヒナタは行き先も決めず走り出した。
早くこの場を離れたい、その一心だった。

(おめでとう、ナルトくん…想いが伝わって…)

目が熱くなっている。心臓の鼓動が乱れている。
それでも、ヒナタは走るのを止めなかった。
止まってしまったら、この心に残るしこりが暴走してしまいそうだった。


前をよく見ておらず、気配も探っていなかったので、ヒナタは岩陰から出て来た人物に避けることなく、もろに衝突してしまった。
反動で跳ね返り、地面に尻餅を付きそうになったが、ぶつかった相手が支えてくれた。

「どうしたの?ヒナタ」

支えてくれた相手ではなく、その隣を歩いていたカカシが驚いて話しかけてきた。

「そんなに目を腫らして…まずは落ち着いて、ね」

目線を支えている腕から上へと上げていくと、目に飛び込んできたのは想い人と同じ金色の髪をした男だった。

「よ、四代目様…?」

優しい笑みがナルト連想させる。ヒナタは茫然とミナトを見つめた。
ミナトは、幼子を慰めるようによしよしとヒナタの頭を撫でた。
その手は暖かく、やはり親子だからだろうか、ナルトの手と似たものだった。
一緒に立ちあがる時、自分を包み込んでくれたあの手と、同じ暖かさ――。

「落ち着いたかい?」

「はい…見っともないところをお見せして、すみま…!」

四代目に会ったことの驚きと、手の暖かさに気が逸れていたため、自分が今、彼に体を預けていることを自覚していなかった。
ヒナタは慌ててミナトから身体を離し、何度も頭を下げた。

なんて、はしたないことをしたのだろう…。
泣いた顔で目が真っ赤になっているというのに、羞恥心で顔まで赤くなってしまった。
その様子が可笑しく想えたのか、ミナトが苦笑しながら、またヒナタの頭を撫でた。

「そんなに慌てなくてもいいよ。気にしていないし、女の子は笑った方が可愛いよ」

「ふぇっ!?」

突然の台詞にヒナタはさらに驚き、顔の火照りが引いて行った。
大好きな人の実父に、可愛いと言われて、褒められることに慣れていないヒナタはほとほと困ってしまった。
助けを求めて、カカシをちらりと見る。

「…先生、ナルトの同期を口説かないでください…彼女も困っ」

「君、ナルトの同期なの?…へぇ!これはいいタイミングだね。ナルトがどんな生活をしているのか、知っていることを教えてくれないかな。君が、申し訳ないと今でも思っているなら、これでイーブンじゃないかい?」

カカシは溜息をつき、ヒナタに同情の目を向けた。
「諦めろ」と目で言っていた。
ヒナタは、少年の様にキラキラした目をしている四代目火影を見て、どうしたものかと悩んだ。





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