本心恋心(4)
綱手やシズネ達に絡まれ、人ごみに呑まれ、やっとのことでサクラは連合軍の輪から抜け出すことができた。
人々の間を掻き分けサスケを探していたが、どこにも見当たらなかった。
サスケの性格から考えると、人と大騒ぎする風に見えない。
きっと離れた場所にいるに違いない。
――二人きりで話をしたい。
ナルト同様、サスケを連れ戻したい一心で、修行をし医療忍術も極めてきた。
しかし、再会するたびに思い知らされるのは、自分の無力さだった。
そして、自分がサスケを知らなさ過ぎるということだった。
鉄の国でのナルトとサスケの会話の内容について、詳しいことは分からない。
同じ第七班だというのに、肝心なことではサクラは蚊帳の外だった。
(サスケ君を助けたいのに、サスケ君のことを何も知らないだなんて…。
ナルトがペイン戦の後に言っていたこと、今になって分かったわ)
復讐というものがどんなものか、結局分からなかいままだ。
その状態でサスケに立ち向かうことなどできるはずもない。
彼のことを知ろうとしていなかった。
もし、彼の本心を知れば、自分の中のサスケ像が失われてしまうと感じたからだ。
それは、アカデミーの頃のただ自分の為に恋をするサクラのままだった。
(でも、今は違う…!)
程なくして、サスケを発見した。彼は、一人で何もない荒野を眺めていた。
その後ろ姿を見て、サクラは足を止めてしまった。
皆が一丸となって同じ敵に立ち向かって行った時、ナルトと共闘していた彼を見て思わず涙が出た。
彼が戻ってきてくれたことが嬉しかった。
しかし、彼の闘う様は孤独で、一緒にいても独りを望んでいるようにも感じた。
あの時感じた無力感…。
信じていても、彼と共にあろうと決意したとしても、彼が出す答えは「拒絶」と感じずにはいられなかった。
今の彼の後ろ姿が、あの孤独で闘う姿に重なり、サクラは再び気づかず涙を流した。
「サクラちゃん?」
高い位置からナルトの声が降ってきた。
(なぜ、あんたはいつもタイミングがいいのよ…)
なかなか振り向かないサクラを不思議に思ったナルトは、軽やかに岩場を降りて、サクラに近寄った。そして、ギョッとした顔をした。
その反応に驚いたのはサクラの方だった。
「ちょっと、その反応は何よ」
「なんで泣いているんだってば、サクラちゃん?」
泣いている。
その言葉に驚き、目元を触れてみれば、確かに目から水滴が溢れ出てきていた。
「なんでもない」
「なんでもないじゃないだろ」
「なんでもないの!」
振り上げた腕は、ナルトには届かず空を切った。
何度も、何度も、腕を振り回した。
(まるで駄々を捏ねる子供みたい)
そう感じつつも、サクラはただ涙を流し、ナルトに八つ当たりした。
しかし、サクラの手は一向にナルトには当たらず、宙を舞っているだけだった。
避け続けるナルトが、突然サクラの肩を掴んだ。
がっしりした大きな手に、体が固定されてしまい、サクラは動けなくなった。
衝撃で涙は止まった。
ナルトを見ると、辛そうな、哀しそうな顔をしていた。
「…サスケか」
想い人の名を聞き、またサクラは涙した。
ナルトの手に、力が籠った。
肩に痛みが走ったが、それを気にするほど心に余裕がなかった。
この想いは自分だけのもの。
サスケを思いやっているのはナルトも同じだが、サクラ自身にも彼に何かしたいと考えている。
きっと、胸の内を話せば、ナルトは助けると言うだろう。
自分の気持ちより、サクラの気持ちを優先させるだろう。
もうナルトだけが苦しむ姿を見たくない。
サクラは痛みを感じながら、俯き首を振り続けた。
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