言葉遊び。
彼女と付き合いだして、いやそれ以前から、図書館に通うようになっていた。
放課後、待ち合わせをする場所は決まって図書館。
今日も彼女と小さな机を挟んで座っている。
テスト週間が終わった直後だからか、いつもより閑散としていた。
パサリ…と本のページをめくる音が、妙に響く静けさだった。
「なぁ、ヒナタ、何を書いているんだってばよ?」
なるべく周りに聞こえないように、ナルトは小声でヒナタに問いかけた。
「ふふっ、ちょっと待ってね」
そう言って、ルーズリーフにつらつらと文字を流れるように書いていく。
前から覗き込もうとするが、すぐに引っ込めてしまう。
ちらりと見えた文面から、どうやら詩のようだった。
「できた」
ヒナタは、頬を染めて、そっとルーズリーフを差し出した。
それを手に取って読んだが、ナルトは意味が分からず首を傾げた。
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
光を放つ
夕陽(ゆうひ)は
海原の彼方へ
外国へ
日向(ひなた)に咲く
菜の花は
楽しそうに
弾み踊る
漆塗りの
図鑑の表紙は
魔法のように
綺麗で
何が出るかな
瑠璃色かな
遠くに耳を澄ませば
頑張る君の声が聞こえてくる
芒(すすき)野原を
金の風となって吹き抜ける
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
一見、綺麗な詩のようだが、文章が繋がっていない。
ただ言葉を並べただけの、詩(うた)だった。
「これがどうしたんだってばよ」
クスクスと笑う彼女を見て、これは何かあると直感で感じた。
「待てってば、もうちょっと考えてみる」
じっと紙とにらめっこしているナルトを、ヒナタはチラチラと恥ずかしがりながら眺めている。
この詩を見られて恥ずかしいのだろうか。
いや、それならわざわざ自分から見せることは無いだろう。
ふと気が付いた。
なぜふりがながふられているのだろう?
そしてひらめいた。
シャーペンを手に取り、詩の左側に文字を書いていく。
できあがった文字を順番に読んでいった。
とくん、と胸が跳ね上がった。
頬が熱くなるのを感じた。
彼女を目でチラリと見てみると、もじもじと人差し指を突き合わしていた。
(そういうことか)
彼女の詩の右隣に、ナルトも文字を書き並べた。
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
オレンジ
レモン
モモ
オニオン
まぐろ
えのきだけ
のり
コーヒー
鶏肉
ガーリック
すきやき
きなこ
だんご
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
出来上がった単語の列を読み返して、自分の文才の無さを思い知らされる。
(食べ物しか出てこないなんて…)
それでも、彼女に読んでもらいたい。
ルーズリーフを差し出すと、ヒナタは恐る恐る受け取った。
ゆっくり目を上下に動かして、ナルトの作った文字列を読む。
ぽっと音が鳴ったように聞こえた。
ヒナタの顔が真っ赤に染まった。
恥ずかしがっているようだったが、表情は嬉しそうに微笑んでいた。
自然と口元が緩んだ。
彼女もそれに気が付き、お互い目を合わせる。
「ぷっ」
「クスクスっ」
ナルトとヒナタの忍び笑いが、図書館に響く。
カウンターにいる司書が何事かと一瞬こちらを見たが、すぐに興味を失ったのか作業に戻った。
ナルトは手を伸ばし、そっとヒナタの手の甲に自分のそれを添える。
そして、ゆっくり手の位置をズラし、指を絡めた。
ヒナタも手に力を込めた。
指を絡めたまま、ナルトは身を乗り出してヒナタの耳元に口を近づけた。
「また、しような、言葉遊び」
「…っ、うん」
あんな言葉をかけられたら、堪らなく嬉しい。
ピクンと肩を震わせる彼女の反応が可愛くて、言葉よりももっと彼女を感じたいと強く思ったナルトだった。
end.
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