ソレ



青く澄みきった空。
太陽が優しく照らす下で、一人の少年が川のほとりを歩いていた。


タンタタン


軽い足取りに、無意識な鼻歌。

余程、嬉しいことがあったのだろうか。

笑顔で崩れたその顔は、幸せいっぱいで、きっと彼の班員から「だらしない」とツッコみを入れられてしまうだろう。

胸元にある両腕で何かを包み込んでいた。
宝物のように優しく、壊れ物を扱うかのように、そっと。

時折、立ち止まって、恐る恐る手の内を確認して、破顔してまた足取り軽く進み出す。


タタンタンタン


普段何気なく歩いている道が、彼の嬉しい様子の影響で、がらりと雰囲気が変わってしまった。
彼が歩いた跡が、キラキラ輝いているように見えた。
彼の足音が、まるで鍵盤打楽器のように、軽くて可愛らしい音のように跳ねた。


コンココンココン

ポンポンポポン


リズムはめちゃくちゃだというのに、何とも楽しそうなのだろう。

そして、また立ち止まって、“ソレ”覗き込んだ。

彼の手の平の隙間から、漏れ出す幸せの香り。

幸せが逃げ出さないように“ソレ”そっと包み込んで、彼はまた歩き出した。

喜び溢れるその笑顔と共に。


パタパパパタパタ


家に戻ると、幸せ気分が一転、慌てたように台所へ一直線。

戸棚や引き出しを掻きむしり、何かを探している様子だ。

片手には大切な“ソレ”が潰れないように握られていて、もう片方である物を探していた。


ガタタタガタ

ゴトゴトゴゴト

ギィギィギィ


「あった」

見つけた物に急いで水を汲む。


ココココポトコココ


透明な容器に、透き通った水が注ぎこまれた。

テーブルの真中に、容器を置いた。

水がゆらゆらと揺れた。

窓から入る日差しで、水面はキラキラ光る。

ずっと握りしめていた片手を、ゆっくり開いた。

手の中から出て来たのは、幸せを呼ぶ緑の葉っぱ。

“ソレ”は、まだ小さい幼い葉。

それでもその中には、いっぱいの幸せが詰まっている。

彼女がくれたその葉は、例え幸せを呼ぶ物でなくても、彼にとっては幸せの象徴。


ユラユラユララ


そっと“ソレ”を水に浮かべた。

そこから広がる波紋が、ジワジワと彼の心を優しさで満たす。

彼女がくれた幸せは、今、彼の目の前で、輝いている。



end...






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