カランカラン、とベルを鳴らして扉を開ける。いつもの喫茶店だから、マスターは笑顔で笑いかけてくれた。顔なじみとは良いものだ。

「来てるよ、彼」
「うん、ありがとう」

マスターがカウンターの奥を指す。そこには真っ黒のフードを被った人が座っていた。もちろん目的の相手はその人なので、その人の横に座る。

「今日は珍しく遅かったね」
「うん、ごめんねマーモン」

元ヴァリアー霧の守護者。マーモンは相変わらず素顔を見せてはくれないが、そんなミステリアスな雰囲気が私を本当の私にさせてくれる。というか、本当の私を知っているのは彼だけだ。

「またベルに『本命の所?』って聞かれたよ」
「む、と言うことはベルもナマエのことが好きなのかもしれないね」
「いや、それはないよ。ベルはどう考えても『同期』だもん」
「どうかな」
「本当に。フランには『好きな人教えて下さいー』って言われたしね」
「その様子だと誰にもばれていないようだね」

おかげさまで、と笑いかける。

「僕にはすぐにわかったけどね、君の本質」

少し照れくさくてマスターに頼んでおいたお酒を一杯煽った。










『おいボスさんよぉ!』
『なんだドカス』
『今日、新しい雲の守護者が来るらしいじゃねぇかぁ!』
『そう!聞いたわよぉ〜!ねぇ、男?女?』
『女だ。ボンゴレから引き抜いてきた』
『女の子!?じゃあガールズトークとかできちゃうわねぇ』
『オカマがガールズトークとかキモイし』
『ベル、てめぇと同じ年齢だ』
『マジ?弱かったら殺すかも、シシシっ』
『どんな人が来るんでしょうねー』
『真面目に働き、ボスに忠誠を誓うやつがいい』
『私はガールズトークできればいいわねぇ』
『俺は普通の奴で良いぜぇ』
『スクちゃんには癒し要素がある子がいいんじゃない?』
『気持ち悪いこというんじゃねぇオカマ!』
『だってぇ、毎日ボスから瓶投げられて疲れてるじゃない?』
『そんなことよりミーは面倒見てくれるセンパイがいいですー。っていうかセンパイってことでいいですよねー』
『甘えて任務代わってもらおうとか見え見えだし。まぁ王子と同い年だったら、殺りあえる奴がいいよなー』
『堕王子は友達募集中ですかーいいですねー』
『おいクソガエル』
『もぅ、ここで暴れないでよ!もうすぐ来るわよ』











私にはいろいろ期待がかかっていた。
ありとあらゆる役割を期待されていた。
だから、

「ある意味ものすごく素直な子なのにね」

マーモンがニヤリと笑ってこちらを見ていた。
恥ずかしい恥ずかしい。

「え、えっと・・・フランにはヒントをあげたよ!」
「何て?」
「『みんなといるときの私はどう?』って」
「なるほどね」


さすがの私でも、みんなが望むような役割を同時にはこなせない。だから、ヴァリアーに居て唯一本性が出るのが、『みんなといる時』。

誰かと二人で居るときは、絶対にその期待に応えようとするんだ。


「ナマエ」
「ん?」


「今、楽しいかい?」


マーモンが優しく問いかける。
私はイエローリリィ。花言葉は、虚言。

でも、





「うん、楽しいよ。みんな大好きだからね」




(この言葉が嘘か本当か。彼なら分かってくれるはず)




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