―――こちら、D2地区。ターゲット入りました。どうぞ》
《見えました。あと20秒で射程に入ります。どうぞ》
「はーい、みんなありがとねー。ほんとに助かったわーどうぞ」

夜の雨が容赦なく体を打つ。月の光は厚い雲に進路を妨害されているが、このスコープが狙う一点は、雨でも妨害はできないだろう。
高層ビルの屋上。
そこに真っ黒な服を着た女性がニコニコしながら無線から入る連絡に答えていた。

《リリィ隊長、でもほんとに進級させて貰えるんですか?》
「もちろんだよー。安心して」

女性の唇が、歪んだ。

「二階級特進、いいでしょ?」

この状況でその意味が分かってしまった集中力がないようなやつならここにはいらないし、気付かないようなノロマなやつもいらない。要するに、選ばれた人はいらないのだ。

「じゃあね、みんな」

言うと同時に引き金を引く。弾丸は狙い通り隣のビルの振動関知型爆弾の右上5ミリの所に食い込み、轟音と共にビルは崩壊した。

「はい。殉職、二階級特進おめでとー」

ちゃんとターゲットもビルの下敷きだ。ニヤリとその恐ろしいほどの美貌を歪めれば、妖艶だ、と数少ない『仲間』が歩み寄ってきた。

「いつも思うんだけどさ、それ本気?」
「だと思うか?」
「まさか、妖艶じゃなくて狂気の間違いでしょ」
「良くわかってるな」

真下を見下ろせば元建物だった瓦礫の山が広がっている。失敗はないな?と確認してくるのでまたニヤリと笑って見せた。レヴィは僅かに畏怖の念を向けてくると、直轄部隊に何かを命じ踵を返した。

「戻るぞ。ボスが報告を待っている」
「はぁい」

足場を、蹴る。
人間離れした身体能力はあっという間に現場から逃げることができる。だが雨のせいか、いつもより足が重かった。

「何故、殺した」

隣を走るレヴィが呟いた。それを意味するところが分かれば、また笑うしかできない。

「だって、必要ないもの。私の本当の隊はこんな使い捨てみたいに扱わないし、能力が低いやつはいつか死ぬんだから、有意義に使うのがいいと思わない?あ、ちゃんと能力があるやつは引き抜いてるよ」

間違ってはいないようで黙り込むレヴィ。やっぱり暗殺者よね、と一人納得すれば何となく雨がおさまってきたように感じた。

「イエローリリィ、ということか」
「あー、それ?結構気に入ってるんだよねー私の隊の子がつけてくれたんだけどさ」
「毎回あんなテストするからだ」

あんなテスト。
あれは私がやっているヴァリアー入隊テストみたいなものだ。実際本物の入隊テストは存在するが、正直一番弱い部隊の隊長である私がいらないと思えば、どこの隊でも使ってもらえない。だから、勝手にテストするのだ。そしてその勝手が通用できるのは、あくまでも我が道を行く浮き雲であるからで。

「あまり派手にやるとボスに報告するからな」
「はいはい」

いつもテストで隊員を騙す。
そして優能力者だけを引き抜いて、殺す。
だからイエローリリィ、花言葉は『虚言』。
隊員がつけてくれた。

ちなみに本名はヴァリアーの幹部しか知らない。
当然レヴィは知っているわけだが、彼はあまり名前を呼びたがらない。

「でもボスは一応知ってるよ?」
「なぬっ!?」

暫く走ればヴァリアーの館。ようやく任務から解放されると思えば体は急にふわふわと漂いだしそうだ。雨に濡れた金髪と黒い隊服を適当に絞ると、レヴィに書類報告を任せ、自分達が帰ったことを伝えてかつ簡単な口頭報告をするために、足早にボスのいる部屋へと向かった。



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