Target−03
絶体絶命
あぁ、私に死期が近づいているのは間違いないだろう。
もう立つことすら出来ない。
連載3回目でヒロインこと私、名字名前が死んだら、どうなるんだろう・・・
「・・・っというか、日本人には親切心というものがないのかッ!?」
怒気を含んだ声を発していると、変な・・・そう、なんか変なおっさんに会った。
だが人の良さそうな笑みを浮かべている・・・いや、こういうのを宛にしてはならない。あのアホな婚約者もそうだった。人の良さそうな笑みを浮かべて、隙あらば私を押し倒そうと・・・・・・・・・いや、何でもない。
「『NOとは言えない日本人』とはよく言うがねー。キミはどうしたいんだい?」
「っていうか、貴方誰ですか?」
とりあえず敬語で話してみる。
するとおっさんは自分が出て来た家(?)を指して言った。
「ここ、俺が経営しているバッティングセンターなんだけど・・・」
夜もそこそこ人が来るらしい。
しかし、名前がここで倒れている所為で誰も近づかないという。
なんだ、それは私の所為だといいたいのか?
「さっきからそう言ってるんだけど・・・っていうか、大丈夫かい?」
ますます顔色が悪くなっていることに、おっさんは気付いたようだ。なかなか目が良い奴だ、と名前は感心した。
「・・・・・・・・・大丈夫、ではないです」
「家出?(にしては無計画すぎる気がするけど)」
「そ、そうなんです。家出です!(嘘はついてないよな)すっかり支度をするのを忘れていて・・・」
「行く場所がない、と?」
「・・・そんな所です」
そう言うとおっさんが笑い出した。
失礼な人だ。だが、とっても愉快そうな・・・不愉快な笑い方はしない。
これはあの婚約者と違う所だ。
「じゃあ行く所が決まるまでここにいても構わんよ」
「本当ですかッ!?」
金を払わなくて良いならこの上ないが。
いいよな?いいよな?お金払わなくていいよな?という目で、おっさんを見つめる名前。
「現金な奴だね、キミは」
幼馴染みにもよく言われる。
「その代わり、ちゃんとここで看板娘、はバッティングセンターには要らないけど、店員として働いて貰うけど・・・」
「頑張ります!!」
「いや、そんなに張り切らなくても、混んできたときとかにちょっと整理してくれれば・・・」
「私にはモットーがあるんです」
そう、名前にはモットーにしていることがある。
それは・・・
「一宿一飯の恩は三倍にして返す!――― と言う奴です」
おっさんに爆笑された。
「じゃあお願いしようか。・・・えーと、名前は?」
「名字名前です!」
「俺は内田貞治と言うんだ。よろしく」
こうして私は人生の分かれ道、そのひとつを選んだわけだ。
我ながらナイスな選択をしたと、後々振り返っても思う。
二日後。
あれからおっさん、内田貞治と生活するようになり、何事もなく過ごしていた。
そして明日は沢田綱吉と戦って、勝って・・・というつもりだったのに。
「大変だ!山本が屋上から飛び降りようとしてる!!」
何か男子が叫んでいる。
つか、山本って誰だ?
周りの女子に聞いてみると、名前を山本武といって野球部の超期待の一年生で、格好いいらしい。山本ファンクラブまであるのだから、大した物である。
「名前、知らなかったの!?」
「え、うん・・・ほら、私一昨日来たばっかり、だし・・・」
「花!名前ちゃんはこの前来た所なんだから、知らなくて当然だよ」
名前より最初に喋ったのが黒川花で、後に喋ったのが笹川京子だ。一緒にいて楽しい奴だから飽きないが、花はもう名前を呼び捨てにしている。
「いいの・・・京子ちゃんもそんなに、気をつかわないで・・・」
「ほら、名前もそう言ってるんだし。逆に気を遣いすぎてたらねぇ?」
「うん・・・みんなと、仲良くしたい、から・・・」
「あ、ゴメンね、名前ちゃん!仲良くしようね!」
馴れ合うつもりはあまり無いが、学校生活において友達というのもなかなか楽しいと、エルザが言っていたから、とりあえず経験してみるのも悪くないかもしれない。
そんな名前を余所に、花はでもなぁ、と何かを考え始めた。
「私はそんなに山本好みじゃないんだけど」
「そ、そうなの・・・?」
「何かさ、へらへらしてるのが気に入らないっていうか・・・」
「・・・・・・・・・というより、見に行かなくていいの?その、山本って人・・・自殺、しようとしてるんだよ、ね・・・?」
花の好みの話が永遠と続きそうだったのを、名前は機転を利かして逃げた。
「そうね、一応同じクラスの奴だし」
「っていうか、大変なことだよ!行こう、花、名前ちゃん!!」
「「うん」」
屋上に上がると、ギャラリーがすごかった。これもまた武という人物のすごさが思い知らされる。
「おいおい、冗談きついぜー、山本ー!」
「そりゃやり過ぎだって」
必死に、というか本気にしていなさそうなギャラリーの声が、武を止めようと明るくふるまっている。
「へへっ。わりーけど、そーでもねーんだ。野球の神さんに見捨てられた俺にはなーんも残ってないんでね」
名前の眉間にしわができる。どうやら呆れているというか、怒っているようにも見えた。
「(ちっ・・・仕方ない)おい、隼人」
誰にも聞こえないような声で、凜は獄寺隼人に声をかけた。隼人もそこそこ耳が良いので、さっと振り返る。
「どうした?」
「降りるぞ。付いてこい」
意味を察したようで、名前達は脱出用ロープを使って、屋上の壁からするすると伝って降りた。そんなもんどっから取ってきたんだ、と隼人に言われ、凜は自分のポケットを叩く。
「どーしよー・・・あんなこと言わなきゃよかった」
俺は山本に会わせる顔がないよーっと、叫ぶと、目の前には、いつのまにかリボーンがいた。
「山本を友達として手助けしたいんだろ?だったら逃げんな」
「リボーン!!」
銃を向けられたが、急いで逃げる。
そして、ダメツナと呼ばれるその由来を発揮した(くはないけど)のだろうか、見事にギャラリーを突き破ってしまった。
「ツナ・・・」
「!!」
振り向くと、少し驚いたような顔をした山本がいた。
「止めに来たなら無駄だぜ。お前なら、俺の気持ちが分かるはずだ」
「え?」
「ダメツナってよばれてるお前なら、何やっても上手く行かなくて、死んじまったほーがマシだって気持ち、わかるだろ?」
そんな、弱気な山本を初めて見て、思わず出て来た言葉は、その否定だった。
「いや・・・山本と俺は、違うから・・・」
その言葉に、山本は眉をつり上げる。
「さすが最近活躍めざましいツナ様だぜ。俺とは違って優等生ってわけだ」
「ち、ちっ、違うんだ!!ダメなやつだからだよ!!」
あの時、適当に山本にアドバイスを送ったことを、後悔していた。
「俺、山本みたいに何かに一生懸命打ち込んだことないんだ・・・『努力』とか調子の良いこと言ったけど、本当は何もしてないんだ・・・」
俺は心の底から謝った。
「だから俺は・・・山本とちがって、死ぬほど悔しいとか挫折して死にたいとか・・・そんなすごいこと思ったことなくて・・・」
死ぬ前になって、後悔してしまうような情けないのが自分で。
どうせ死ぬなら、死ぬ気になってやっておけば良かったって。
こんなところで死ぬのはもったいないなって。
「だからお前の気持ちは分からない・・・ごめん」
「なぁ、隼人」
「んだよ」
「綱吉、言い奴だな」
ただ慰めるんじゃなくて、元気をつけるんじゃなくて、
「当たり前だ。十代目は、優しい方だからな」
武の問いかけに必死に答えを出していく、そんな綱吉の姿に、
「お前が言うことも分かるよ」
何となく、暖かさを感じた。
一度ニヤリと笑うと、私達はおそらく落ちて来るであろう、頭上を見た。
「って、やっぱり事故ったか」
二人して、いっしょに落ちてくる。
あぁ、速いぞ。あれは。
受け止められるかな・・・?
すると、三階の窓からリボーンさんが笑っているのが見えた。
「あ、空中で死ぬ気弾・・・?」
そんなコトしても、頭から落ちたら、とんでもないことに・・・
そうしたら、綱吉の叫び声が聞こえた。
なんか、『かゆい』って連呼して・・・
「「はぁ!!?」」
隼人と同時に、声を上げてしまった。
何か、髪の毛が・・・伸びてるわ伸びてるわ。
そして、
ぼよぉーん。
髪の毛がスプリングになって、跳ねた。
「いやいやいやいや、常識ってものが・・・」
これなら大丈夫かと思ったが、やっぱり世の中そう上手くできていない。スプリングの所為で跳ねすぎて、そして綱吉がうっかり武を離してしまった。
「あの、アホ!!最後までホールドしてないからだっ」
私はそう毒づくと、山本ってやつが飛んでいった方向に走った。隼人は逆の、綱吉がスプリングしている方だ。
「ちっ・・・」
ざぁぁぁぁ、と山本の下に入り込んでキャッチする。我ながら綺麗な動作だった。
相手は驚いているようだ。
「へ?」
「へ?じゃない!!お前は何を考えているんだ!!事情は知らないがな、っていうか綱吉は優しく言ったが、挫折して死にたいとかそんなんは努力した内に入らん!!いいか、本当に頑張ってたらな、挫折したとき、死んでも死にきれないと思うものだ!!お前の努力はまだまだなんだよ!!だったら、もっと頑張って、死んでも死にきれないと思ってから、死ね!!」
言ってることは無茶苦茶だが、やつはちゃんと私の言葉を理解したようだった。
やはり怖かったのか、それとも私の言葉に感動したのか、目が潤んでいた。
何か、柴犬に見えた。
「うっ・・・」
「あ、さんきゅーな」
「れ、礼を言うぐらいなら最初から死のうとするな。分かったか?」
奴はちゃんと頷いて、そして走ってきた綱吉の方を向いた。
「綱吉!!」
「は、はいっ!」
「お前がちゃんと掴んでおかないから、この馬鹿が飛んでいっただろうが!骨折してるんだから、落ちるなら最後まで面倒見ろ!!」
「ってぇ!!」
「ちょ、名前ちゃん!蹴ってる!!山本の腕、蹴ってる!!」
気付くと、私は無意識のうちに奴の、折れている方の腕をぐりぐりと蹴っていた。我ながら、無意識サドか・・・。
「あ、すまん」
「つかさ、名字、性格変わってね?」
・・・・・・・・・・・・・・・・しまったぁぁぁぁぁッ!!って、顔をした。誰がって、名字が。
「・・・・・・・・・・・・・・・・な、何のことかなぁ、武君」
ぎこちない笑顔。
「いや、無理ありすぎだろ。諦めろ、名前」
「や、やだなぁ・・・隼人君まで」
必死に取り繕っているが、さすがにあの豹変ぶりを無視するのはきつい。
「まぁ、大丈夫だって。他の人には言わないからな」
そう言って慰めると、今度は見下すかのような視線を、俺に送ってきた。迫力あるなぁ・・・。
「本当か?」
「え、まぁ、一応?」
「お前、どうやらもう一度踏まれたいらしいな」
再び足を上げようとしているが、それを俺は止めた。
「いや、スカートはいてるんだから・・・」
五秒ぐらい経過して、やっと名字は理解したように顔を赤くした。あ、意外にピュア?
「と、とりあえず!!綱吉!!明日、明日勝負だからなッ!!いいか!?逃げたら隼人の借金が五倍に増えるからな!!」
そういって、名字は疾風のように去っていった。
「つか、俺の借金を増やすなぁぁぁぁぁぁッ!!」
獄寺の叫び声が、木霊した。
なんか、これから楽しくなりそうなのな。