Target−02
帰国




一人の少女が大きな屋敷の中を彷徨いていた。名字名前だ。
あれから(墓荒らし中の電話)やはり獄寺隼人のことが気になり(本人曰わく『恋愛感情じゃないぞ、幼馴染みとしてあのタコがどのように11万円あつめているのかこの上なく知りたいだけだ。どうせ集められなくて私を恐れ慌てているのだろう』)さっそく日本へ行くことにした。

だが、出かけるとなると支度という物がある。支度というのは、まずあのうっとうしい婚約者から逃げることだ。仮に『日本へ行く』と宣言してしまえば、反対されるか最悪付いてこられるかのどちらかで、個人としては一人で旅がしたい。

「おい、エルザ」
「何でございましょう、名前様」

エルザ。
このメイドは数少ない日本語が通じる世話係で、婚約者の愚痴を聞いて貰っている。それを告げ口しないのが、名前が気に入っているポイントでもある。

「私は、旅に出ようと思う」
「分かりました、上には報告せず準備をします」

これが隼人とエルザの差か・・・と名前は満足そうに頷いた。てきぱきした動作と言い、融通の利くところ。まさに完璧なメイドと言えるだろう。男だったら惚れていたかもしれない、と思うところであった。

「止めてくださいね」

訂正しよう。
このメイドは、何故か知らないがまれに心を読む。

こんなやつに惚れたとなると、自分も落ちた物だな。

「ところで、どうして急に旅に・・・?」

滅多に首を突っ込んでこないエルザが、干渉してきた。明日は槍が降るかもしれないので、やはり今日中に日本へ行くべきだろう。

「隼人は知っているな?」
「はい、姉のビアンキ様によくクッキーを貰っているところを拝見しました」
「じゃあ当然ボンゴレ十代目の噂も来ているはずだ。名前は沢田綱吉とか言うらしいが十三歳ですでにボンゴレのトップ、むかつくことに文武の成績はこれ以上ないほど低く、女子からももてないというボンゴレにあるまじき恥だ。それが、まぁ九代目のご厚意でトップになったのなら勝手にすれば良いのだが、隼人の奴が、あいつが私にっ・・・・・・・・・・・・・・この私にわざわざ日本へ出向いて十代目に会えと命令してきたのだ!!」

あーかわいそうですねーとエルザのどうでも良さそうな、棒読みの返事が返ってくる。

「なら、行かなければいいじゃないですか」
「ふん、ちゃんと旅費+11万円で手を打った」
「それは儲けましたね」
「私に抜かりはない」

すると、妙にカツカツという靴音を鳴らしながら歩いてくる音が聞こえた。
この足音は、間違いない。

あの腐れ婚約者だ。

「しまった!訪問の日だったか!!」

だったら今日中に出られなくなる。私としたことが迂闊だったっ・・・

だが、ここでエルザの得意技が発揮される。今まで埋め立てられてきた脱出用通路α、β、γ・・・しかし彼女は必ず脱出用通路を確保してくれる。

まぁ、要するに私の脱出経験を物語る訳だな。

「今日はこちらです!!」

今日『は』、という所からも常習犯という事が伺える。エルザはメイドのスカートをもろともせず、素早いスピードで走った。

そして、通路の入り口は、まさかの壁につってある絵画の裏だった。

「お前、器用だな」
「そんなことはいいので、早く!!」

無理矢理押し込まれると、しばらく会えないであろうエルザを一度振り返った。荷物を持っていく余裕は無くなる。残念だが、仕方ない。

「いつもすまんな」
「構いません。この脱出用通路δはちゃんと空港に繋がっています」

それだけ言うと、お互い握手を交わし私は走り去った。


後ろから、お土産は八つ橋がいいですーっという叫び声が聞こえたが、無視した。










青い空。
白い雲。
眩しい太陽。

なんて美しい光景ではあるが、事実日本は湿度がすごい。
飛行機から降りてきた時は、湿気のシャワーを体全身で浴びたようだった。

「まだ六月下旬だぞ・・・・・・・・・日本はこんなに蒸し暑かったか?」

そうぼやきながら飛行機から降り、隼人から貰った住所をあてにボンゴレ十代目がいる並盛中学校(たしかそんな名前だ。覚えていないが)を探している。

というより、隼人はいい加減私の特性を理解してくれても良いようなものを。
私は住所では分からん!!
地図を書け、地図を!!
私は地図を見れば、大抵の所へは行ける。だが、この日本の地名とやらはややこしくて、どこをどう行ったら何丁目になるのかとか、全然分からん。イタリアもたいがいだが。

とりあえず、隼人から貰った住所を頼りに今目の前にある中学校まで来ることが出来た。
やっとだ、やっと。1時間かかった。

「・・・入学してから隼人をびっくりさせる作戦でいくか・・・」

名前の大嫌いな婚約者、こと『奴』はそう言ったサプライズが大好きだった。
その所為か癖が移ってしまう。
鬱陶しいことこの上ないが、今は奴の気持ちが分からんでもない。

誰にも見つからないように学校の塀を軽く越え、朝のホームルーム前の風景をこっそり覗きながら校長室前に付く。余裕だったな、と鼻で笑い、勢い良く扉を開けると、驚いた顔の校長がいた。
校長室へづかづかと侵入(?)し脅しを駆けると、その前に校長が『貴方が名字名前様ですね!?』と額に汗を流しながらそう言うので、どうやら隼人が手配しておいてくれたようだ。

なかなかやるな。

「お早い到着で・・・」
「まぁ、飛ばしてきたからな」

学校のしおり的なものに一度だけさっと目を通すと、校長室の机の上に叩き付けた。

「沢田綱吉のクラスに入れろ」

声のトーンを十段階ぐらい落として、かつ睨みを利かせて言う。校長は怯えて直ぐに了承してくれた。

(日本人は単純だな。まぁ、私も日本人だが)

「では早速・・・」
「行くとするか」










「えー、じゃあ・・・というか、獄寺に引き続き転入生を紹介する」

担任の良く聞く台詞通りの挨拶に、クラスはざわめきだった。またかよ・・・とか、格好いい人だったらいいなぁ・・・とか反応はそれぞれだ。

「男子、喜べ。女子だ」

鶴の一声。とでも言うのだろうか。
男子がよっしゃぁぁぁぁ、と叫び声を上げた。

「入ってこーい」

ドアに、かつて無いほど視線が注がれる。

ガラガラ・・・という立て付けの悪そうな音と共に、少女が一人入ってきた。綺麗な足取りで教壇に上がるとみんなの方を微笑みながら見る。

「名字名前です。帰国子女ですが、よろしくお願いします」

クラス中が叫び声を上げた。

超美少女。
絶対の微笑み。

担任が言うだけあった、ということだ。

そして約1名、普段の名前を知る隼人は、ありえねぇ、と影で呟いた。
勿論名前からしてもあり得ないわけで。

(ちょろいな)

腹の中は真っ黒だった。

名前本人は自分の見た目の良さはそこそこ自覚している。
これを武器にいろいろやらかしたものだ。
そして、今は無きメイド、エルザの遺言では(死んでません Byエルザ)『学校生活は穏やかに』との事だったので、一応優等生を気取っているのだ。人を騙すのは朝飯前だが、とりあえずこの(不抜けた)雰囲気のクラスに本性がばれることは無いだろう。

(やはりここは王道に優等生か、それとも・・・天然? あー、萌系というのも有りだな・・・とりあえず最初は周りになじめなくて困っているちょっと可哀想な転入生、ということにしておこうか)

名前はどこに座ったらいいのか分からないですオーラを放ちつつ担任を見た。

「あー、お前の席は・・・そうだな。とりあえず後ろか」

後ろ。
そうか、後ろか。
悪くない席ではある(後ろの席の利点は、寝られることだ)が、沢田綱吉を観察するのにはあまり向いているとは言えない。

「わ・・・分かりました」

不安そうに表情を作ってみると、隼人と目が合い、

『馬鹿じゃねえの?』

という感じで見られた。

(ほっとけ)

目で返すと、隼人は窓の外へと視線を戻す。

席に着き、皆の視線を気にしつつも担任の話を聞く。

(あー、ホームルーム終わった後、これは質問攻めのパターンか・・・)

とりあえず、頭の中で解答練習をすることにした。










――――――――――――――――――――

1時間目の初めからお昼に至るまで、ひたすら質問され続け、名前の精神は疲労していた。

(・・・・・・・・くそ・・・まさか、こ、ここまで・・・とは・・・・授業の時間がありがたいと思う時がくるとは思っていなかった・・・)

ある程度ほとぼりが冷め、お昼ご飯も女子と一緒に食べて、一人の時間を過ごしていた。
笹川京子に空気を読んでもらって、一人にして貰うようはかったのだが。

(・・・・・・日本の女は、強い・・・・・・)

自分も日本出身ではあるが、とりあえず奴に決闘を申し込まないと。

むくりと起き上がり、綱吉の前まで歩いていく。

「あ、の・・・綱吉くん」
「え? 俺? な、何?」
「その・・・今、空いてる?」

いきなりの問いかけに、綱吉はびっくりしているようだった。

「あ、もちろん・・・忙しいなら、いいんだけど・・・その・・・」
「大丈夫だよ!」
「じゃあ、屋上とか・・・いい?」

一度ちらりと隼人に視線を送る。すると自然に奴は立ち上がり、付いてきた。

「あ、獄寺君も来る?」
「えぇ、十代目が行くところならどこへでも」










「って、何でリボーンまでいるんだよ!!」
「決闘の臭いがしたからな」
「決闘って、そんなわけ「無きにしもあらず、ってところだな」

良く通る声。
この声質は聞いたことがあるが、こんな偉そうな態度じゃ無かったはずだ。

「名前・・・ちゃん・・・?」
「隼人から話は聞いて居るぞ。ボンゴレの十代目さん」

また敵っぽい人でてきたーっ、と綱吉は叫ぶ。

「隼人が褒めちぎるぐらいだから、どんなものかと思っているのだが・・・」

名前はビシィッ、と綱吉に指を突きつけた。

「勝負しろ。いいな? 三日後だ」
「珍しいな、名前。どうして三日後なんだ?」

隼人が口を挟んできた。
やかましい、と名前は隼人を睨む。

「うるさい。急いで出て来たから、寝るところとか何も考えていないんだ。それの準備だ、準備」
「つかそれぐらいしてこいよ!!入学手続きはふんどいてやったのに!!」
「それが出来るなら他のこともしておけ、タコ」
「んだとぉぉぉッ」

「なんか、言い争いしてるけど、いいのかな?」
「さーな。とりあえず、決闘を申し込まれたからには引き受けないと、ボンゴレの名が廃るぞ。ってことで、ちゃんと引き受けろよ」
「えぇッ!? 無理だよ、絶対無理! だって、名前ちゃんすごく強そうだし」
「つえーぞ」

「っていうか、隼人。さっさと12万円返せ!!」
「だから何で値上がりしてんだよ!!」
「利子だ!」
「んな法外な利子あるかッ」

「ほら明日とか、体育あるし、筋肉痛で出来ないっていうか・・・その・・・」
「認めねーぞ。逃げたら宿題増やすからな」
「そんなぁぁぁぁぁぁ」

屋上で、二組の騒々しい痴話喧嘩が聞こえる。










×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -