―――― トライク・・・X-105ストライク、聞こえるか?応答しろ》

「あ・・・・・・こちらX-105ストライク」

キラ・ヤマトは唖然としたままナタル・バジルールの声に応答した。

ヘリオポリスが崩壊した。
アスラン・ザラが、親友が、ザフトにいた。
ナマエ・ミョウジはミリアリア達と合流したはずなのに、居ない。

いろいろなことが重なった。

でも一番気がかりなのは、ナマエの事だ。

ヘリオポリスが崩壊したことも気になる。だが、殆どの人はちゃんと避難しているし、やはり他人のことより知り合いのことの方が気になる、それが人だ。

(大丈夫だよね・・・ナマエしっかりしてるし、きっと救命ポッドの中で泣いてる赤ちゃんとかの面倒見てそう・・・)

有りそうな事を考えていると自然と気持ちが楽になり、ふぅーっと息を吐く。だがアスランの事も気がかりだし、ナマエのことを完璧に割り切れた訳じゃない。大丈夫だと何度も言い聞かせると、キラは操縦レバーを握りレーダーに映る白亜の巨艦『アークエンジェル』を目指した。










ナマエはあれからクルーゼが早急に手配させたシャトルに乗り、本国『プラント』へと帰っている。銀の砂時計をイメージさせるそれは、彼女の生まれ故郷ではないが9年近くいる場所でもう自分の本当の家の事よりもよく知っている。

(いきなり帰ってきたら、驚くでしょうか・・・・・・?)

口元を無理に動かし、笑みを作ってみせる。何とか笑える事を確認すると、ナマエは再び視線を窓の外の宇宙へと向けた。永遠に続く、この広い戦争の舞台は、終焉の時を知っているのだろうか。コーディネイターが滅ぶのか、ナチュラルが滅ぶのか。それとも双方生きるか、死ぬか。どのみち遺伝子を弄りすぎた自分達が生き残る術などもう無いような物だが。

(婚姻統制、か・・・・・・)

自分と対になっている遺伝子を持つ者と結婚させる。それがこの制度だ。イザーク・ジュールやディアッカ・エルスマンは毎日のようにお見合いの話しが来ているし、アスラン・ザラはすでにラクス・クラインとの婚約が決まっている。自分もいつかは婚約の話しが来る。
でもそんなことまでして、結婚したいだろうか?
子供を産みたいだろうか?
国のために生むなんて、間違っている気がする。

たぶん、そう思っている人もいるはずだ。そう言った思想からも出産率が減っているのだろう。

シャトルがゆっくりとプラントに近づいて行く。しばらくするとシャトルが止まったのだろう、一度衝撃が来た後アナウンスが流れた。

(降りますか・・・・・・)

ノロノロとした足取りでシャトルを降りると、イザークに似た人が待っていた。正確にはイザークが彼女に似ているのだが。

「エ、エザリア様!?」

エザリア・ジュールがナマエに優しい笑顔を見せて両腕を広げてみせる。飛び込んでこい、という事なのだろうが、ナマエは躊躇し飛び込むのは止めた。するとエザリアは拗ねたように唇を少しとがらせる。

「お帰りなさい、ナマエ。シーゲルから貴方が帰ってくると言う情報を貰って、迎えに来たわ」

評議会議員の身で、とても忙しいのにも関わらず迎えに来て貰って事にナマエは申し訳ない気持ちを抱えて、頭を下げた。

「申し訳ありません、エザリア様」
「気にしないで頂戴。イザークからも心配だと連絡が入っていたの。しばらく休みなのでしょう?」
「そうですが・・・・・・」

徐々に重力を感じ始め、プラントの大地に降り立つ。この重力は遠心力によるものだ。ヘリオポリスと同じ構造なのに懐かしいと感じ、そしてヘリオポリスを思い出してしまう。あれを破壊した原因は、自分だ。

「・・・・・・・・・・・」

ナマエが黙ってしまうと、エザリアは優しくナマエの肩を叩く。その落ち着いた雰囲気に、ナマエは目を細めた。

「今回の事は、決して貴方の所為ではないわ」

ただ一言そう言うと、エザリアはにっこりと微笑み、明日は買い物にでも行きましょうと話し始めた。

「しばらく『親子』で買い物にいけなかったでしょう?」
「お、親子ではありませ「親子なの、いいこと?」・・・・・は、い」

渋々とナマエは頷き、エザリアは満足そうだ。
ナマエは少し元気が出たように笑うと、少し伸びをし明日の事について考え出した。










「ナマエが帰ってきましたの?」

明るいバルコニーに居た、ピンク色の髪をした少女が振り返った。その笑顔はとても華やかで、見るもの全てを虜にしてしまいそうだ。

「そうらしい。ただ少し疲れているようだから今日と明日ぐらいは通信を入れるのは止めておきなさい、ラクス」

父、シーゲル・クラインは娘のラクス・クラインが自室に行こうとしたのを見て、おそらく通信を入れるであろうと予想し、止めた。今回の帰国は長期潜入捜査の期間中の振替休日、というのが表向きの理由だが、実際のところ仲間の死で精神的に病んでいたナマエに休養を取らせるというクルーゼの計らいだと思われる(ラスティの父親であるジェレミー・マクスウェルとは評議会でほぼ毎日のように会っているが、さすがに彼の方が精神的負担は大きいだろう)。それにエザリアの休暇の話しも出ていたので、明日は彼女がナマエを連れ回していることだろう、そんな様子が目に浮かぶ。親子水入らず、ではないがそれを邪魔させては悪い。シーゲルはやれやれと溜息をついた。

「明後日ぐらいなら彼女も空いているだろうからね。明後日にしておきなさい」
「分かりましたわ、お父様」

ラクスは嬉しそうにその場でくるくると回り出す。すると球状のロボットがマネをしてラクスの周りを回り始めた。

《テヤンデーイ》
「まぁ、ピンクちゃん。あなたも嬉しいのですね?」
《オマエモナー》
「ふふふ・・・・・・」

そんな和やかな様子にシーゲルは一瞬家に帰ってきた目的を忘れそうになり、慌ててラクスに話しかける。

「今回追悼慰霊団の代表としてユニウスセブンに行くだろう?」

話しかけると回っていたラクスが止まり、シーゲルの方を向く。その表情はきょとんとしていて、親バカのつもりはないが、さすがプラントの歌姫と言われるだけの可愛さはある。

「それで一人でもいいから護衛を付けろとのことだ」
「まぁ・・・」
「一応候補は名簿にあるが・・・」

この話は、ナマエが帰ってきたという時点で、ラクスからしてみれば聞くまでもない事だった。

「わたくしの護衛はナマエにしますわ」

やっぱり・・・とシーゲルは溜息をつくと、いい加減ナマエ離れできないラクスをどうにかできないモノかと呆れるしかなかった。










ナマエ


――――誰?


僕だよ、ナマエ。


――――ラスティ?


そ、僕。


――――どうしたの?


何かさぁ、ナマエすっごい気にしてたみたいだから。僕が死んだ事。


――――だって、アレは私が・・・


気にしなくて良いんだよ。
アレは僕がしたくてやったことだから。
僕はナマエを守れてよかったって思ってる。
あの時アスランとかがナマエを守ってたらちょっと複雑だったし。

僕はナマエが大好きだから、心配なんてしてほしくない。

だからさ、気にしなくて良いんだよ。


―――― でも、


まぁ、どーーーーっしてもお詫びがしたいっていうなら、墓参りきてよね〜


―――― うん。


あ、ミゲルもオロールも側にいる。でも、まだこっちには来ないでね。


―――― 行かないよ。だってせっかくラスティがくれた命だもん。


なら良かった。
こっちに来ようなんて思って欲しくないからさ。

・・・・・・じゃあね、ナマエ。元気で。


―――― ラスティもね。










ナマエはゆっくりと目を開ける。
久しぶりの柔らかいベッドの感触に、あぁ帰ってきたのかと実感し、時計を見るともう十時をまわっている。何時間寝ていたのかと自分に呆れつつも、食事を取るために服を着替えて下の階に降りた。


温かな夢を見た気がする。

内容は、ほとんど覚えてないけど。

とても、温かな夢。


断片的にしか覚えてないけど、温かな夢。


「おはようございます」
「あら、おはよう。随分顔色がよくなったわね」

ぐっすり眠れたのかしら?と笑うエザリアにナマエは頷き、

「とっても良い夢を見れた気がするんです」



昨日までとは違う笑顔を見せる。
本当の、作り笑いじゃない、笑顔。

夢の破片を集めて、
一つずつ話していくナマエを見ながら、

僕らは思ったんだ。









―――― そーそー、僕らが見たいのはその笑顔!










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