銃声。
銃声。
銃声。

銃声が聞こえない時間なんて無かった。

その中でもクリアに覚えている銃声は、大切な仲間を撃ったときのものだろう。

悪いのは地球軍なのに。
地球軍が悪いのに、
どうして兄もラスティも死ななければならなかったんだろう?

憎い。
憎い。
憎い。

私が、この手で地球軍を堕とす。



―――― ザフトのために。










前方に大きな人型の機械が横たわっているのが見えた。

モビルスーツ。
地球連合軍がナチュラルにでも扱えるように改良したG兵器だ。ただ機体そのもののロールアウトの段階ではまだナチュラルに使いこなせる状態ではなかったはずである。
ナマエ・ミョウジが仕入れた情報をそのまま信用したならば、アレにはフェイズシフト装甲(PS装甲)を採用していて、各機体に特殊装備が備わっているはずだ。

「ナマエ、アレか?」
「えぇ」

あの時は一瞬割り切ったような顔をしたが、やはり仲間の死は辛いものでしかない。
アスラン・ザラは苦虫を噛み潰したような顔をし、一番近くにあったモビルスーツの中にナマエを入れた。

「キミはこのOSを使える状態にしたら直ぐに出発してくれ。俺はラスティの代わりにもう一機の方に行ってくる」
「分かったわ」

アスランがハッチから飛び退くと、ナマエは慣れた手つきでハッチを閉じた。
機体を立ち上げ、情報を書き換えてゆく。
その時、

General
Unilateral
Neuro-Link
Dispersive
Autonomic
Maneuver  Synthesis System

(ガンダム・・・)

その『ガンダム』という単語に聞き覚えがあった。


『ガンダム、強そうな名前じゃないか?』


あの時、カトー教授は、確かにそう言った。
ということは・・・

(カトー教授もこの兵器開発に携わっていた、と・・・?)

うっかりしていた。
もし私がザフトの仲間で潜入しているとばれていたとしたら、地球連合軍もそうだがザフトもその外交問題に巻き込まれる。実際今こうして他国のコロニーを攻撃しているのも十分外交問題だが、これは後で言い訳が作れる。しかしオーブのコロニーに潜入していたとなると、ザフトの立場も危うくなるのだ。

ナマエは思考の深みに沈みかけていたが、頭をふると再びキーボードを叩き始める。

(X300番台、可変フレームの採用。580mm複列位相エネルギー砲『スキュラ』・・・・・・とんでもない物を作ったのね、カトー先生は)

少し落ち着き始めると、機体の性能をチェックしていく。最新式のG兵器なのだから、高スペックを持っていても不思議はない。
その時画面に一つの固有名詞が表示された。

「イージス、ね・・・」

思い出した。
これは私が名付けたのだ。



『新しい家庭用ロボットでも作ってみようと思っているんだが、名前を・・・・・・五つぐらい、考えて貰えるかな?』
『新しい家庭用ロボットですか?』
『そうなんだ』
『・・・・・・ストライク、イージス、デュエル、バスター、ブリッツ』
『・・・・・・・・・ぷっ』
『なんですか?』
『いや、家庭用ロボットなのにたいそうな名前付けるなぁと』



「何が家庭用ロボットよ・・・」

ナマエは悪態をつくと機体を起こそうとレバーに手をかけた。その時、メインモニターに人影が映る。
アスランだ。

「アスラン!!」

アスランは必死に走っているようだった。
でも確か彼は残りの一機を取りに行った筈だ。なぜここにいるのだろう?

「アスラン、どうしたの?」

ハッチを開けアスランを中に入れる。
アスランは動揺に揺れているような眼をこちらに向け、ぼそりと呟いた。

「・・・かわってくれ」
「え?」
「俺が操縦する、そこを代わってくれ!」

アスランの怒声が飛ぶ。彼の変化には気付いてはいたが、何が起こったのか分からずナマエは恐る恐るシートを譲った。アスランがそこに滑り込むように座るとメインモニターを睨む。

「アスラン、本当にどうしたの?もう一機は?」
「・・・・・・・・・もう一機は・・・」

ラスティもアスランも乗っていないのに、そこに横たわっていた鉄の塊がゆっくりと起き上がった。
その動きは妙にゆっくりで、でもその形は間違いなかった。

「もう一機は・・・」


―――― 『敵』に取られた。










《遅いッ!!》

無駄に大きな声がスピーカーから聞こえ、ディアッカ・エルスマンはヘルメットの所為で耳がふさげないことを不幸に思った。
確かに自分達はここでナマエと合流し、今叫んだ人物がナマエを拾って帰る筈なのだ。だが拾われる本人が居なくては帰りたくても出来ない。ニコル・アマルフィには先に戻るように言ったが。

《どうなっているんだ、説明しろ!!》
「と、言われてもさ・・・」

あぁ、うるさい。
と思っても言えず、ディアッカはやれやれと肩をすくめモニターに映っている戦友を見た。

イザーク・ジュール。
それがさっきからカリカリしている青年の名前だ。プラチナブロンドの髪を肩口で切りそろえたクールな印象の彼は実はなかなかの激情家で、こうやって怒鳴り散らしているときは大抵ナマエに助けを求めるのだが生憎今は居ない。なんやかんやでナマエが心配なイザークはコックピットから降りて探しに行こうとしたところ、通信が鳴った。

《イザーク、聞こえるか》

どうしてこんな機嫌が荒れているときにアスランという人物はイザークに話しかけたりするんだろう。
ディアッカは深い溜息と共に、一度ヘルメットを脱いで耳を塞いだ。

《何の用だ、アスラン!!》

キィーン・・・という嫌な音が響き渡る。

《ナマエはこっちで保護した。イザーク、ディアッカ、二人とも直ぐにヴェサリウスへ戻れ》
「アスランはどーすんの?」
《勿論戻る。それと・・・・・・・・・》

アスランが口ごもる。
こんな時に珍しい、とディアッカは耳を傾けた。

聞かなければ良かったと思った。

《ラスティは失敗した》
「はぁ?なんの冗談だよ。笑えねぇっつーの」

通信機越しにでも、重いオーラが伝わってきた。

「・・・マジで?」

嫌な沈黙の後、アスランは一言その自分の言葉を肯定し通信を切った。

しばらく操縦桿を握る手が動かなくなったが、辛うじて口を動かす。

「イザーク、聞いてた?」
《あぁ。もう行くぞ》

無言でバーニアを吹かし、ヴェサリウスへ帰って行く青い色の機体を自分は追った。










《よくやった、アスラン!!》

援助に来たミゲル・アイマンは通信が開くなりそう言った。
だがナマエはそんな言葉に顔を歪めた。ナマエはミゲルを睨み付ける。

彼が悪いわけではない。
それぐらい分かっている。

「ラスティは失敗だ」

アスランは声が震えるのを懸命にこらえてそう言った。またナマエの肩が震える。その肩を、アスランは優しく叩いた。

《じゃあアレは?》

ミゲルはおそらく今立ち上がっている灰色のモビルスーツを見ているのだろう、画面越しでも眼が会わなかった。
ナマエもイージスの画面から同じモビルスーツを見ている。

ラスティが乗るはずだった機体。
それを、地球軍のやつが乗っている。

「あれには地球軍の士官が乗っている」

どうして、悪いのは地球軍なのに。
どうして、大切な物を奪っていくのだろう?

ナマエの永遠に続くであろう問答をミゲルの激励が吹き飛ばした。

《分かった、アスラン。お前は離脱しろ。ナマエもちゃんと送り届けろよ》
「分かっている。イザークに何言われるか分からないからな」

ミゲルが通信を切ろうと手を伸ばしたが、その手が止まった。ミゲルのその瞳が、ナマエを捉える。

《ナマエ》
「何?」
《あまり気にすんなよ》

でもっ・・・とナマエが口を開きかけた瞬間、ミゲルが静止の手を挙げた。

《お前の気持ちは分かってる。伝えてやれなかったことが一番辛いだろうが、それはあいつもよく分かってるはずだ。だから、気にすんな》

何時も思うのだ。
どうして、彼はみんなの兄のような存在で、なんでも知っているのだろう。
ラスティに告白されたことも、自分以外知らないはずだ。
しかし心が少し楽になったことだけは、感情を殺そうとしている頭でも理解できた。

「ありがとう」

ナマエは心からの感謝の笑みを浮かべると、ミゲルの顔が真っ赤になった。

《元気になって何よりだ。じゃあ後でな。あの機体の相手は俺がする》
「ミゲル」

なんだよ?とミゲルが笑う。

《お兄さんが恋しくなった?》
「まさか。ただデートしたいから、無事に帰ってきてね、って思っただけ」
《はいはい、そんな好条件なお誘い逃しませんよ》

じゃあ、とミゲルは通信を切った。

「アスラン」
「なんだ?」
「ミゲルって・・・」

お兄さんみたいだよね。

そう言ったナマエの横顔は誰かを思い出しているかのように穏やかで。
アスランは複雑そうな顔をすると、ナマエに体に捕まっているように言い、機体を発進させた。




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