「あっつー…」

蒸されるような暑さの中、スポーツバックを肩にかけながら無駄に長い坂道を一人歩く。午後から部活、と言うことなのだが、まぁ今日と言う日にのこのこ部活に現れるような奴なんてよほど情報に疎いやつか自分のようなリアルを充実してないやつで。と、この場合も略してリア充になるのか、と馬鹿なことを考えながら汗を流す。

(花火大会、ねー)

いいわねほんとのリア充は、と坂の上にどーんと構えている憎き学校を睨み付ける。涼しそうな顔しやがって。

(くっ、私だって部活さえなければ家でアイス食べながら窓から花火見ると言うリアルをやってのけたのに!!)

それは少し違う気もするがこの際どうでもいい。校舎を通りすぎ体育館の横を抜け、テニスコートへ向かう。と、壁打ちの音が響いてきた。

(おぉ、我が同志!!)

噂に疎いやつか非リア充かは知らない。が、今日ここに来ているやつは仲間だ。友達だ。親友だ。こっそりテニスコートを覗き見ると、なんとも非リア充とは程遠い人がいた。

「あー、イザーク?」

ありえない。学校で人気のおかっぱ君が、なんで部活に。確かありとあらゆる女子から花火大会行こうと誘われていたはずだ。

「あぁ、ノヴァか」
「あんた、花火大会は?すっごい数の人から誘われてたじゃん」
「貴様、この俺があの人混みの中出歩くと本気で思っているのか?」
「あははー、それもそうだったね」

ってことはこいつはあれか。ある意味ものすごいリア充か。

「それにな、」

流れている汗を拭いながらイザークかちらりと自分の方を見る。あぁ、これが世の女性たちを陥れた魅惑の瞳と言うやつですか。

「好きなやつがいない花火よりいそうな部活の方がいいに決まっているからな」

なんですと。

「イザーク部内に好きなやついんの!?」
「今そう言っただろう!」

そう言えばシホと一緒にいるところをよく見かけるけど。はっ、そう言うことか!

「あんた!私の大親友のシホを取ろうなんてそうはいかないんだからね!」
「ばっ、違うに決まっているだろう!!今の流れでどうしてシホが出てくる!」
「あー顔赤くなった!図星ね!あいにく、シホには私がついてるんだから、絶対あげないし!」
「いるか!くそっ」

バカな応酬をしていると噂のシホが来た。だいたいシホには彼氏がいるのだ。幸せカップル代表なのだ。イザークごときにその幸せを潰させてたまるか。

「シホーーー!!」
「どうしたの?」

こんなくそ暑い日に抱きついても文句ひとつ言わない彼女はきっとあれだ、聖人君子だ。この子の彼氏にさえシホを渡すのは惜しかったのに、イザークはモテるから絶対泣かせそうだし、やっぱり渡せない。渡すもんか!








部活終わりに急いで花火大会へ行く、という約束を彼とし、坂を上ってテニスコートに入ると、予定通りイザークがノヴァにアプローチしているところで、入るのはやはり邪魔になるかと何となく部室の陰から眺めていると、口論し始めた。ノヴァが話をややこしくすることはあまりないから、イザークが紛らわしい言い方をしたんだろう。喧嘩して仲が悪くなるとまたイザークの体重が減りそうなので仕方ないとテニスコートへ入った。

「シホーーー!!」

また勢いよく飛び付いて来るものだからちゃんとしっかり受け止め訳を聞いてみる。が、よくわからない事を永遠に喋り続けそうだったのでイザークの方に視線を送った。

「気にするな。暑さで頭がおかしくなったんだろう」
「はぁ?ちょっとそこのおかっぱ面貸せや」

ノヴァがヤンキーがかった仕草でイザークを睨み上げる。対するイザークは余裕の見下しだ。

(ほんとに、仲良しよね。十分)

イザークから相談を受けたときはちゃんと話を聞いたものの、よく見ていれば心配しなくても仲良しそのものだ。





勝手が分からない初めての恋。





(まぁこれが成就するかどうかは本人次第だけど)
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