彼の登校時間は非常に早い。早朝はバッティングセンターに寄ってることもあるし、無いときは適当に町内をランニングしながら朝練へ行ってしまう。だから彼と登校なんて無理中の無理で。

(で、クラスも違うから会うこともない。と)

彼を初めて見たときから数日間はもう少しでも良く見えさそうと無駄に少し化粧したりしたが、全く会えないことが分かるとやる気も失せ、今ではもう髪もボサボサの制服もシワシワだ。まぁ見るやつは精々クラスの友達ぐらいで、その友達からしたらこっちがスタンダードだからつっこまれることはない。むしろ化粧した時なんかどれだけ笑われたことか。

「はよー」

あーはいはいおはようございます。そんなことより今思い出すと何で笑われなきゃいけないんだ。応援されるならまだしも笑われる理由なんてこれっぽっちもないのに。

「何、一人で百面相かー?」
「何って、そりゃあの薄情なクラスメイトを……」

って、この爽やかなお声は!!

「え、あ、へ?!」
「おー今日も名字はおもしろいのなー」

何故、会ったし。
普段すれ違うことさえなかったのに、何故、今日に限って、会ったし。
髪も、服装も、最悪なのに。

「んー?今日は化粧してねーのか」
「そ、そうなの!今日は、その……」

「ま、そっちの方が俺は良いと思うけどなー」

じゃーな!と山本くんは手をふって自分の教室へさっさと入ってしまう。
それを見届けたあと、ダッシュでトイレに駆け込んだ。幸い鏡を使っている人はいない。自分の姿を見てみると、案の定というか、女子らしくない、残念な格好だった。

(昨日まではまだましだったのにー!!!)

叫びたいのを、今トイレ使用中の人のために我慢する。化粧を今からでも、いやそれだと遅すぎるし、もう会わないかもしれない。っていうか今の教訓で『会わないと思ってても会っちゃった』パターンが再び、いやいやさっき山本くんに化粧してない方が良いって……

(あれ?化粧してるとき、会ってないぞ?)

疑問がふと思い浮かんだけど、そんなことよりこれからだ。





始まりの予感





(もしかして普段から見られてたり?)







倖田●未の『恋のつぼみ』より
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