侵食
悪の魔王が住んでそうと思わせるこの建物にアクマと戦う聖職者が住んでいるなんて、何の冗談だろうと思ったのがつい昨日の事のようだ。小さい頃父に連れられ科学班で可愛がられてからというもの、就職は絶対にここだ!と決めた自分を呪いたくなる。原因はもちろん目の前に死屍累々と広がる科学班の班員。徹夜ばかりで疲れているのは分かるが、いや、そもそもこの徹夜の原因を作ったのは他でもない室長か。
「室長!いつまで寝てるんですか!早く起きてください!」
部屋の電気をつけ、仁王立ちになり怒鳴り付けるが起きようともしない。日系は相手に気を使える種族だと自分も信じていたが、どうやら人間、環境が変わればいくらでも性格は変わるようだ。
「んー・・・あと、一日・・・」
「せめて『あと5分』にしてください!単位が大きすぎます!」
「名前ちゃんは元気だねー・・・」
そう、自分がこんなに元気なのも、女の子だからという室長の配慮のおかげだったりするのだが、あんな様子のリーバー班長やジョニーを見ていると、何がなんでも叩き起こして掃除ぐらいさせないと、と思ってしまう。実際には、自分も昨日の騒動がやかましすぎるせいでほとんど寝ていないのだが、それを言うとさすがに気を使ってくれた室長にも失礼なので言わないでおく。
「ねぇ、名前ちゃん」
冷たい、冷静な声。
コムイ室長が時折見せる、上に立つ者として冷酷になるときの、声だ。
それが、今発せられている。
「はい、室長」
寝返りをうち仰向けになると、眩しいライトから目を守るように腕を被せる。
時計の秒針が一周回ろうとするころ、室長が深く息を吸った。
「どうして、朝は来るんだろうね?」
貴方を起こすためです!と今までの緊張感を返せ的な大声で怒鳴り付けると、うー、と先ほどまでとは打って変わって情けない声を上げながら、何とかソファーから滑り落ちた。
「あー、朝日が体を蝕むー・・・」
「いっそ、そのまま侵食されて消えてください。それが世界のためです」
「名前ちゃんが酷いよー」
さぁ、朝一番の仕事は完了だ。
あとがき
夢?