暗闇。
どことも分からない暗闇で、自分はもがいていた。
足を動かしても進んでいる様子は無くて、しゃがんでいるはずなのに立っているのとしんどいのは変わらない。
手を伸ばしてみる。
でも、指先は何も感じ取らない。

自分は感覚を無くしたのだろうか?
なら、どうして血の臭いを感じる?
どうして体が重い?

どうして手が血に濡れていると分かる?

『私は・・・・・・ッ』

殺してなんかいない。

そう叫びたいのに、声が出ない。
でも兄の死体は、お前が殺したんだと言うかのように、光の無い目でナマエを見つめる。

『私は・・・・・・』

違う。
違うと分かっている。
事実殺したのは地球連合軍で、私じゃない。

だから違うよと否定したかった。

でも、見ているだけで何も出来なかったのは事実で。

――― お前は見捨てた。

――― 俺を見捨てた。

――― あんなに大切にしていたのに。

――― お前は見捨てた。

『・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・・・・ッ』

何度も兄の死体に向かって頭を下げる。
しかし、兄の言葉は続く。

『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・』

謝り続け、言うことが無くなったのか、兄は今度は優しく語りかけてきた。

――― なら、お前はすまないと思っているんだな?

『勿論だよ』

――― なら、死ね。

首を絞められ、息ができない。
助けて。

誰か、助け・・・て・・・










「ナマエ!」

その声で、ナマエは目覚めた。
どうやら悪夢にうなされていたようで、服は汗を吸収し体にベタついてて気持ち悪いし、シーツも同様だ。

「大丈夫か?」

心配そうに顔を覗き込んでくるのは、自分が居候させてもらっている家の一人息子、イザーク・ジュール。その瞳は兄のそれとそっくりで、ナマエは無意識のうちに肩に力を入れていた。

それをイザークは悟ると、ナマエを一度風呂に入るように勧める。

「汗で気持ち悪いだろう。早く入って来い」
「は、い・・・」

部屋を出ていったのを確認すると、イザークは仕方ないとシーツを新しいものに取り替える作業を始めた。










心配をかけるつもりじゃなかった。でも彼は気づいてしまっていて、相変わらず勘がいいんだと思った。

「はぁ・・・・・・」

体を伝って流れるお湯が、気持ちいい。汗も一緒に流れ落ち、不快感を取り除く。

このまま全てが流れたらいいのに。

「そんなわけ無い」

辛くても、兄が死んだことに変わりはない。なら、今を生きる自分はどう過ごせばいい?

人はよく言う。
その人の分まで生きろと。
でも、その人が死んだのが運命なのだとしたら、『その人の分』なんてないんじゃないか?

「何言ってるのよ・・・・・・」

今日の自分はおかしい。
いつもの自分じゃない。
いつもの自分なら、兄の分まで生きようとしているのに。

あぁ、いつもの自分じゃないか。
いつもは熱なんて出ないし、今日は気が滅入っているだけ。

「それだけ、だよね」

風呂から上がると代わりの服が置いてあった。下着が服の中に無造作にくるまれているから、聞かなくても誰かは分かる。

微笑を口許に浮かべると、手際よく服を着ていく。ゆったりとした服を着て再び部屋に戻ると、イザークがベッドメイキングし終えていた。

「あ、ありがとうございます」
「気にするな。さっさと寝ていろ」

無理矢理ベッドに押し込むと、ナマエに布団をかける。

「・・・・・・・・・・・あの・・・」

眠ろうとしたが、あの時の夢をまた見そうで怖い。
ナマエは恐る恐るイザークを呼んだ。

「何だ?」
「あの・・・・寝るまで側にいて貰えますか?」
「っ・・・」

ノヴァが布団から伸ばした手が、イザークの手の甲に触れ、その手の熱さに不覚にもドキッとしてしまう。

「あぁ・・・分かった」
「ごめんなさい」

申し訳なさそうに謝るノヴァの頭を優しく撫でると、元々紅かった頬が更に紅くなる。

「謝るな。俺は別に構わない」
「・・・・・・・・・・・ありがとうございます・・・」

イザークは手首を回転させ、優しくナマエの手を取る。

「・・・・・・・・・・ちゃんと、居るからな」
「・・・はい」

おやすみ、と一言イザークが呟くと、ナマエはゆっくりと目を閉じる。
その表情は先程と違い落ち着いていて。










安心して眠れ。

決して、この手を離さないから。












あとがき
過去の作品だと分かっていても、駄文感がものすごく強くて・・・。
読者のみなさま、本当に申し訳ありません。
下手なのは重々承知しております。
お許し下さい。
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