いつものように大広間で朝御飯にありついている時だった。いつもは一声かけてその後座ってみんながご飯を食べている様子を微笑ましく見ているダンブルドアが、立ち上がって手を叩いた。

「では、少し聞いてもらおうかの」

そう言われても久々に味噌汁を味わえていると言うのに、止められるわけがない。そんなの、無理だ。だから構わずそのまま味噌汁をすすっていると、思いっきりハーマイオニーに睨まれた。ので、大人しく従うことにした。

「明後日は、なんの日か、皆は知っておるじゃろう」

大広間の空気が、僅かに熱気付いた。と言うことはあれか。日本人の自分には分からないが、なんらかの行事があるんだろう。こう言う時、異国市民はアウェーになる。

「ならば話は早い。明後日、ハロウィンと言うことで仮装して舞踏会を開こうと思うのじゃ」

ハロウィン。
聞いたことはある。
しかし、あれは生け贄を寄越さなければお前に不幸を訪れさせるぞ!と言う恐喝と共に町中を練り歩き人々をその自信の恐ろしい姿をもって恐怖に陥れるもののはずだ。

「「何その誤解ありまくりのハロウィン」」
「やぁ、フレッドにジョージ。そして心を読むのは止めてくれ」
「いや、駄々漏れだったよ」
「そんな素晴らしい事ができたら新しいいたずらに使うさ!」
「なるほど。一理あるな」

二人は頑張って私の誤解を解いてくれた。

「なるほど、子供が仮装して『おかしくれなきゃいたずらするぞ!』と言ってお菓子を求めるのか」
「「そーそー」」

どちらにせよ舞踏会とは縁がなさそうな行事だ。そのわけを聞けば意図も簡単に教えてくれた。

「「ホグワーツだしな」」
「なるほど、理解した」










「名前ー?準備できたー?」

うん、こんなもんでいいか。
ポニーテールに猫耳……いろんな要素がなきにしもあらずな感じだが、仮装なんて服も持ってないし魔法で何かやろうにもまず魔法薬学しかできない私にどうしろと?ディーンのようにアフロじみた髪型に変形させようか?いやいや。

「すまないな。終わった」

待っていた双子のもとにかけよれば、二人はドラキュラだった。もうそのニヤニヤした笑い方なんてピッタリだ。もう人間やめてドラキュラに転職すればいい。

「「似合ってるぜ」」
「そりゃどうも」

俺たちはどう?なんて聞いてくるが、ここで似合うと言おうものなら間違いなく調子に乗るので言わない。これが長年(?)連れ添ってきた経験値というやつだ。双子は顔を見合わせると、せーの、という掛け声なしで同時に、

「「お菓子くれなきゃいたずらするぞ!!」」

なんて言われるのは分かりきっていたので、

「はい、これでいい?」

二人の口のなかにチョコレートを押し込む。さすがに双子も驚いたようで固まってしまった。

「ふん、君たちの行動などお見通しなのだよ」

得意気に胸を張るが、双子の方は非常につまらなさそうだ。フレッドは早々立ち直って新しい何かをしようとしているが、ジョージはまだ奇襲作戦が失敗したことをすねている。

「ん、じゃあ行くか!」

後ろでこそこそ相談をしだした二人を無視して大広間へと向かうことにした。

「あ、名前!」
「アンジェリーナ!天使のコスプレとは……素晴らしいねっ」
「名前も、とっても似合ってるわ!」

じっくりアンジェリーナのコスプレを堪能すると、二人で大広間に入った。

「わぉ、」

魔法って素晴らしい。魔法を使うのが苦手な自分にはそんな簡単な感想しか出てこない。だってすごいし。これがマグルの世界なら『いつの間に飾り付けた?』ってなるところだよ。少し離れたところにいるハーマイオニーもぶつぶつ何かを言っている所を見ると、何の魔法を使っているのか調べているんだろう。勉強熱心だ。

「フリットウィック先生かな?」
「飾りつけのこと?そうでしょうね」

アンジェリーナが自分と同じようにキョロキョロしだした。そこへ、

「「はい、今回のメインのやつ」」

また双子は現れた。神出鬼没とはこのことだ。気を聞かせてくれたんだろう、その手には今回のダンスの時につける仮面がある。

「何か企んでやしないかい?」
「まさか!」
「俺たちは紳士だぜ?!」
「紳士かどうかはともかく、ありがたく受け取っておくよ」

後でハーマイオニーに見てもらおう、とその場で仮面は着けずにポケットにしまいこんだ。フレッドは赤、ジョージは緑が主の仮面を装着すると、二人は足早に去っていった。

「何するつもりなの?」
「さぁ?予想がつかないことはないけど」
「何?教えてよ」
「それを言ったらフレッドとジョージに悪いよ。まぁ、外れてる可能性もあるし、お楽しみにってことで」

ダンブルドアの手を叩く音が響いた。










緑の仮面の相棒が部屋の隅で『いつもの自分』のようにおとなしくしている。逆に赤い仮面の自分はいろんな女の子に声をかけて『いつもの相棒』のように振る舞う。
事の経緯はもちろんイタズラから来ていて、さっき名前にイタズラできなかったことの復讐に他ならない。どうせ子供さ。
その名前はというと、残念なことにダンスパーティーにも関わらず味噌汁を隅っこの方で飲んでいる。

(踊れよ!)

心のなかで突っ込んだが、味噌汁を飲んだ後のあの『はふぅー』っていう顔が面白すぎて吹き出した。

(あんな呑気そうなのに僕らが見分けられるんだもんな)

また適当に女の子たちに手を振る。今回はみんなの前で堂々と色違いの仮面を被ったのでみんな見分けはつくみたいだ。

(じゃあそろそろ)

味噌汁を飲み終えた名前に近づく。向こうも気づいたようだ。

「やぁ」
「おーぅ。君も味噌汁飲むかい?」

ずいっと味噌汁を進めてくる彼女は相変わらずの得意顔だ。それを丁寧に断ると相棒の方を見た。

「ほんと、相変わらず相棒のやつじっとしてるよなー」
「冗談だろう?普段は君の方が大人しいじゃないか」


あれ?


「そんなことないぜ?」
「いやいや、向こうがあんな風になってることの方がびっくりか。まだ一回も女の子に話しかけてない」


もしかして、


「そういえば、」
「は、い」
「いつ仮面入れ換えたんだい?ジョージ」


やっぱり。
顔も出していないのにどうして。


「仮面つけてたって見分けぐらいつく」


おふくろでさえ間違えるのに。


「私を誰だと思っている。名字名前だぞ?」

いつもの得意顔で。


「どんな姿でも見分けてやるさ」



仮面の奥に真っ赤な顔一つ。


(嬉しい、なんて、そんな馬鹿な!)










あとがき
ハロウィン過ぎてた。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -