バリン、と言う嫌な音が自室に入ろうとしたときに、聞こえた。俺、ディアッカ・エルスマンは今、猛烈に冷や汗をかいている。このパターンは以前にも10回以上は経験してる。今入ったらダメだ、と脳が判断するのとドアを開けるスイッチを押すのは、悲しいことに同時だった。

「よぉ、今度はどうしたんだよ」

腹をくくり、部屋を地獄と化させた張本人、イザーク・ジュールにディアッカは声をかけた。ギロっと睨まれれば、知りたくなくても『また』アスランに何かの勝負で負けたのだとわかる。お前も懲りないねー、と言えば、うるさい!と怒鳴り付けられた。

「だいたい、何でそこまで勝ちにこだわるんだよ。二人で勝負すりゃ勝ちと負けに別れるけど、イザークは2位なんだぜ?下なんて山ほどいるだろ?」
「うるさい!じゃあ聞くが、一番を取る『男』と二番を取る『兄妹に近い関係の男』だったら、どっちが理想だと思う!?」

またナマエ絡みか・・・と呟けば、イザークは悔しそうにその綺麗な顔を歪めた。本当に、普通に黙ってたらアスランにも普通に勝てるぐらい男前なんだけどな。
まあイザークの不安は仕方のないことで、イザークとナマエは、言ってしまえば幼馴染みで一緒に暮らしているのだが、その長さが半端じゃないぐらい長い。ナマエに関して言えば、実の両親と過ごしてた時間よりジュール家の居候としている時間の方が長いぐらいだ。だから男として見られていないのではないかと言う不安は仕方がないといえば、仕方がない。だが、ここは同情よりも先にすることがあった。

「それ、ナマエ本人が言ったわけ?」

二番は嫌って?と尋ねれば、イザークの怒りの動作が止まる。

「聞いて、ない・・・」

まあプライドの高いイザークの事だ。聞けないのも無理はないだろう。だが俺の部屋とその平和を守るためだ。ここは助け船、と言うか橋渡しをしてやる。敵に塩を贈るのは、本当に最後にしたいところだ。

「よし、じゃあ聞きにいこうぜ!」





「順位、ですか?」

図書室の隅っこ。女がてらアカデミーの赤服を着ようと思えば、やはり努力は必須なのか、大きいテーブルに爆弾処理やらプログラミング、モビルスーツ戦の応用技術に至るまで参考書が山積みになっている。イザークを図書室に連れていくのは気が引けたが(うるさいし)、全ては自分のため、少しの犠牲はやむを得ない。今はナマエからは見えないが話は聞こえるところで待機してもらっている。

「そ、やっぱり女子って学生とか運動能力とか、気にすんのかなーって思って」

ほら俺4位だろ?といって見せれば、ナマエは、ディアッカらしいですね、と自分がさっきまで書き込んでいたノートに目をやる。それは努力の一部が、はっきりと現れといた。こんなところまで、とことん誰かさんと似ている。銀色の髪といい、確かに兄妹のようだ。

「他の女性は知りませんが、」

ナマエは顔をあげた。綺麗な目をしている。

「私は少なくとも、能力の良し悪しで人を判断することはありません。特にコーディネイターともなれば、能力値は普通に高いレベルになるからでもありますが・・・」

ナマエの目が、柔らかな弧を描いた。
その時、思った。
やっぱり、ナマエはいい女だと。

「その人が、努力しているなら、私は順位なんて気にしません。努力値、と言うのがあればそれで一番を取る人が、私には魅力的に見えます」

心が暖かくなった。俺でも、まだ望みはあるのかと思えたから。
でも、この天使のような女は、人のギャップによる突き落としが非常に得意だったようで。

「でも、やっぱり二番よりは一番がいいですよね、普通に」

私もアカデミーでの順位一番が取りたいものです、と頷くナマエ。
ただ全く本人には悪気はない残酷な言葉と、これから始まるであろう悪夢の開始を予想させる本棚がきしむ音が、ディアッカの脳内に響いた。
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