「ナマエ…?」

呼べば、恐る恐る振り返るナマエ。服は無残に引き裂かれ、口の周りと太ももの辺りは白く汚れている。それだけ見れば、彼女が何をされたのか十分に分かる。同じ男だが味方である自分が来れば安心してもらえると思ったのに、余計に彼女は痛めた体を後ずさりさせる。

「ナマエ、俺だ。分かるだろ。俺は何もしない」

あまり直視するのも躊躇われる姿だったが、安心させるためにナマエの瞳を見つめる。だがそのうち、その瞳から男を恐れている訳ではないことを読み取った。ではなぜ自分を恐れるのか分からなかったが、一歩ずつゆっくりと距離を詰める。

「聞かれたくなけりゃ何も聞かない。言いたくないなら何も言わなくていい」

ナマエの前にしゃがみ込み、手だけ差し伸べる。そちらが望まなければこれ以上は近づかない、という意思表示だ。

「ナマエ」

もう一度その名前を呼ぶ。すると怯えていた表情が崩れ、目に涙を浮かべたかと思うと、差し伸べた手を取り、弱い力で引っ張られた。一歩進めば後は簡単だ。手を一度振り払うと、その腕を彼女の背中に回す。料理を扱うときのように、繊細に、その背中を撫でた。

「あ、うぐぅ…ひっ、く…こ、じぉ…」

嗚咽と共に小さく名前を呼ばれて、我慢が出来なくなり、力強く抱きしめた。ナマエの腕が上がり、自分の背中に回される。

(この臭いは…)

この独特な臭いの中にある僅かな香り。ナマエを強姦した男がつけていた香水だろう。これに覚えがあった。料理人にもかかわらず香水をつけて来たので怒鳴りつけたのは記憶に新しい。

(ってことは、あいつらか…)

ほぼ確実に自分への不満を募らせてこんなことに及んだのだろう。
奴らを今すぐにでも卸してやりたい怒りを何とか押さえ込み、泣きじゃくるナマエの頭を撫でると、自分の着ていた上着を脱いで着せる。汚れることを恐れてかイヤイヤと首を振るが、そんな格好では家にも帰れない。着てろ、とだけ言うとナマエを担ぎ上げた。

「まだ早朝だが人通りの少ない道を選ぶから我慢しろ。帰るぞ」





シャワーの音が扉越しに聞こえてくる。

(っくそ……)

ナマエを風呂場に放り込み、普段は立ち入らない彼女の部屋へ行き、クローゼットから下着と寝間着をとって脱衣所に置いて、今は風呂の扉に背中を預けて立っていた。
ここで待つ必要はないが、もし、何かあった時、すぐに駆けつける必要があったからだ。

「ナマエ、大丈夫か?」

声をかけても特に返事がないが、シャワーの音と動いている音だけは聞こえるので、とりあえず活動はしているようだ。しかし返事がないのが不思議になり、今度は扉をノックしてみる。

「…おい」

シャワーの音。それだけになった。

「ナマエ、入るぞ。言ったからな」

恐る恐る扉を開けると、予想通り裸の彼女がいたが、先ほどの痛々しい姿ではないだけマシかもしれない。それよりも、彼女が手に持って反対側の自分の指先に当ててるものを見て、血の気が引いた。剃刀だ。

「おい!何してんだ!」

慌てて中に入り、剃刀を取り上げる。彼女の左手は既に血が流れており、彼女はそれをペロリと舐めた。よく見れば彼女の口の中は石鹸の泡が入っている。よほど男の味が不快だったのか。

「もうやめろ、自分をこれ以上痛めつけるのはよせ」
「あ、ぅ…ぬれ、ぅ、こじ、だいじょ、ぶ、そと、で…」

何と言っているのか、聞き取るのが困難だったが、言おうとしていることは大体わかった。

「分かった。俺もこの後入るから、お前も早く出ろ。んで、リビングで待ってろ。わかったな」
「う、ぃ…」

浴室の外に出て、ずぶ濡れになったシャツを洗濯カゴへ放り投げる。下も完全に濡れていたが、この後彼女が出てきた時に下は履いていないとマズイので、そのまま突っ立って待つことにした。
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