頬に当たる冷たい感触に、意識が戻ってきた。
しかし意識が戻ったところで、体が自由に動かせそうになかった。
「…あぇ」
自分の声が聞こえた。なのに、聞こえてきた単語が意味をなしていない。もう一度何かを言おうとしたが、何かわからなかった。
(耳がおかしくなった?)
思った通りの言葉が出てこない。しばらく意味のない赤ん坊のような発音を繰り返していると、一人の男が顔を覗き込んできた。
「おーい、気づいたぞー」
ここはどこ?何が起きてるの?聞きたいことはいっぱいあるのに、言葉が出てこない。だが、おそらく自分がこの地面に寝転がっているのは、この下卑た笑い方をするこの男たちのせいだとすぐに分かった。
「よぉ、ナマエちゃん」
「俺たちの顔分かるー?」
「つっても、ワカンねぇよなぁ、こんな下っ端のことなんか」
いや、分かるよ。そう言おうと思ったのに、また変な音しか出てこなかった。
「まぁ、シェフがあれじゃあ、その女なんて俺らが一緒に働いてるってのも、認識してるかどうか怪しいよなぁ」
いや、だから、分かるよ。
君は肉料理担当の子。君は新米の皿洗いしかやらせてもらえてない子だね。その奥の君はこの前小次郎に解雇されてた子かぁ。
「え…う…」
「なんだぁ?寝ぼけてんのかぁ?それとも声が出ないって?」
「だったら都合いいじゃん。あまり叫ばれたり泣かれたりしたら厄介だからよ」
「ひひっ、それもそうだな。まぁ見たところそこそこスタイルは良いみたいだし…」
なんの話だろう。
なぜこの男たちは私の服に手をかけているのか。
「まぁ、四宮シェフを落としたテクニック、俺たちにも体験させてもらうとしますかねぇ」