「何でここにいんだよ」
「おはよ、こじろー」

女性の質問を無視した呑気な挨拶に、四宮得意の締め上げが出るのかと創真は心配になったが、女性に向けられた手は顔面を締め付けることなく頭を無造作に撫でるだけに終わった。

「え」

唖然とする創真に、別段気にもしない他のスタッフ達。これは通常運転なのだろうかとソワソワしていた創真に気づいたアベルが『気にするな』と小声で教えてくれた。

「え、だって、『あの』四宮先輩が、女性の頭を撫でてるんですよ?もしかして、彼女さんっすか?」
「まぁ、確かに、普通はそう思うよな…」
「「うんうん」」
「普通は、ってことは」
「「「違うんだなー」」」

違う。そう思ってから、もう一度2人を見てみる。違うと思えば違うように見えるものだ。ほら今だって…

「ちゃんと飯食ってたか?」
「うん、だいじょうぶ。むこうの、しごとも、だいじょうぶ。だから、ぷれおーぷんの、さいご、きた」
「ったく…ちょうどいい。今日はかなり客が多いんだ。手伝っていけ」
「いいの…?」
「わけの分からん奴は叩き出すが、お前は信用できるからな。頼んだぞ」
「oui」

彼女に見えてしまう。
そしてまた頭を撫でた。
纏っている雰囲気は間違いなく『優しい』。
優しさレベルは合宿で作ったスフレオムレツクラスだ。

「えっと…見ようによっては、兄妹?」
「そんなところだ。四宮シェフも、ナマエも、お互いを尊敬し合っている料理人なんだそうだ」

ナマエ。女性の名前はナマエというらしい。

「それにしてもネ!あの、なんとも言えない雰囲気は、シェフが合宿から帰ってきた後から急に、だよネ〜!」
「おい、リュシ、声がでかい」
「シェフが私たちの意見を聞くようになったのもその辺りからですし…」
「飲みに誘われたのもその時だしなぁ」

ナマエが言っていた『すたっふとなかよくなれた』とはここの事なのだろうか。

「ふーん。四宮先輩が信用してるっていうぐらいだから、ナマエさん、料理の腕は確かなんですね」
「…昔はシェフと技術やセンスの競い合いをしていたけど」
「何かあったんすか?」
「いや、何でもねーよ。さて、仕事だ。その前に聞きたいことがあるならさっさと消化しとけよ」

強引に話を逸らされてしまい、モヤモヤした感情を残しながらも、最終日の今日を乗り切り新作コンペに挑むため、一度頬を叩いて気合いを入れ直した。
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