スタジエール最終日。
SHINO'S TOKYOのプレオープン期間中はそれを祝福するように快晴が続き、今日という日も例外なく快晴だった。創真は店内の掃除、料理の下準備を終え、最終日に向けてさらに気合いを入れるために店先の掃き掃除を快晴の空を眺めながらしていた。

(雨降ってると外の掃除はしにくいし、やっぱ晴れが一番だよなー。お客さんも外食しに来やすいし)

何より晴れの方が気分がいい。今日は新作コンペの日でもあるので、より気分が高まってきた。

(まぁ、まだ何を出すかしっかり決まってないけ、ど…?)

落ち葉をちりとりの中に入れ、ふと顔を上げる。そこには、1人の外国人がいた。深紅の目は薙切アリスを思い出させるが、髪色は彼女よりも青みを帯びており、その髪も長かった。

「えーっと、あの、開店はまだ先なんすけど…」

SHINO'Sの看板を凝視している深紅がこちらへ向けられる。目が合った瞬間、その深紅に吸い込まれ全てを掌握されたような気分になった。だがそれが不快ではなく、掌握というよりは見定められるといった方が正しいのかもしれない。ほんの数秒無言の時間が生まれたが、見定めが終わったのか、先に外国人の女性が話しかけてきた。

「うん、だいじょうぶ。こじろー、いる?」

流暢に話すのは無理そうだが、日本語は使えるらしい。そう言えば見るからに外国から来た人に日本語で話しかけた自分を少し恥じた後、女性が言った意味を理解しようとした。

「こじろーって…ああ、四宮先輩のことか!まだスタッフさんたちは来てないです」
「…そう。あなたは?すたっふ、ちがうの?」

確かに店先で掃除しているのにスタッフではない、ならお前は何なのか、と聞きたいのだろう。

「俺は遠月の研修で来てて…」
「…もしかして、あなたが、ゆきひらそーま?」
「え、あ、そうっす!」
「こじろー、いってた。『くそなまいきながき』って」

もはや悪口のレベルの紹介の仕方だったが、女性はとても優しい笑顔で話し続けた。

「こじろー、ほかのひとのはなし、するように、なった。このまえの、がっしゅく、おわったとき。『のろま』さん、『くそなまいきながき』さんの、はなし」
「田所っすか?鈍間じゃないっすよ」

うん、わかってる、と彼女は続けた。
2人のことを認めているから私に話してくれる。ただの悪口を言うだけなら、彼はわざわざ自分の時間を割かない。話すということは、そういうことなのだ、と。

「あと、あなたにも、めぐみさんにも、おれい、いう。ありがとう」
「へ?」
「あなたたちの、りょうりで、こじろー、すすめた。すたっふと、なかよくなれた。わたし、うれしい。ありがとう」

こんな美人に、こんな特上の笑顔を向けられて、さすがに何も感じないわけにはいかなかった。気恥ずかしくなって頬をかき、『それは俺じゃなくて田所にいってください』と言うと、優しい手つきで頭を撫でられた。
この人は一体何者なんだろう、と熱くなっていく頬から意識をそらすために考えていると、向こうから歩いてきた人たちに目が行き、すぐに女性もその視線を追ってその人たちに気づいた。

「「「あ」」」
「おはようございます!先輩!」
「おはよ、あべる。うぇい。りゅし」

一人一人に挨拶していく女性は、最後にラスボス級の怒気を放つ男の前に立った。

「何でここにいんだよ」
「おはよ、こじろー」



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