暑い。
暑い。
体から全て水分が飛んで行ってしまったように口の中もカラカラで、声も出せない。
助けて。
何がどうなったのかもわからない。
なぜこんなに暑いんだ。
誰か、助けて。
誰か、





着水直前に最後に残った燃料を使い切るつもりで噴射すれば、なんとか水面に叩きつけられるのを回避できた。完全にフェイズシフト装甲も落ち、隣でぐったりして動かないセルシウスがかなり心配だが、そのセルシウスがぐったりしだしたのもついさっきの話しなので中の人物もまだ生きてるはずだ。バスターも同じようにバーニアを全開にして着水したので、熱された機体から湯気が上がっているが大丈夫に見える。

「くそっ、暑い!」

イザークは悪態をつきながらハッチを開けて外に出る。海水に突っ込んだおかげでもう機体の上に立てるぐらいには冷やされており、デュエルの横に浮かんでいるセルシウスに飛び乗った。

「ナマエ!ナマエ!大丈夫か?!」

声をかけても出てくる様子がなく、外部からアクセスして何とかセルシウスのハッチを開けた。中から異様な熱気が噴き出してきて思わず顔をしかめる。

「ナマエ!」

中にいたナマエはピクリとも動かずコックピットに収まっていた。手は操縦桿を握りしめており、かなり緊張状態にあったことが分かる。イザークはコックピットの中に飛び込み、ナマエの横に降り立った。

「ナマエ、もう大丈夫だ。手を離していい」
「…ん、あ…イザ…」

一瞬だけ目があった。そして完全に意識が途切れてしまったようで、操縦桿からも手が離れパタリと音を立てた。

「ディアッカ!ディアッカはいるか?!」

意識を失った人間を持ち上げるのは至難の技であることぐらい軍人なら理解している。まさに今ナマエをコックピットから出そうとしているが、完全に出口が上の為、本人を持ち上げなくてはいけない。自分だけでは無理だろうが、ディアッカが上からナマエを引き上げてくれたら大丈夫だろう。本人の名誉のために言っておくが、ナマエが太っているわけではない。カンッという靴音がしたので見上げれば汗だくになっているディアッカがいた。

「引き上げてくれ、完全に意識がない」
「ったく、本当に無茶やるよなぁ…そういうところはホント…イザーク、お前にそっくりだよ…っと重っ」
「何が言いたい」
「長年連れ添ってきただけのことはあるんじゃねーの?ってことだよ」
「やかましい!」

自分はヒラリと簡単にコックピットから脱出し、ナマエに駆け寄る。ディアッカがナマエのヘルメットを外し、額に手を当てていた。

「あっつ…だいぶ体温も上昇してるし、早く水ぐらい飲ませてやりてーけど…海水じゃなぁ」
「ディアッカ、ナマエを連れて海に入っていろ。溺れさすなよ」





「え、あ、あぁ、少しでも体温下げようって?良いけどお前は何を…」

こう言うと誤解を生みそうだが、イザークという男は特にナマエの事になると見境いがなくなる奴だ。ナマエを自分に預けるなんて予想もしていなかった。

「俺はデュエルに戻って一度近くのザフト軍基地と連絡を取る。落ちる角度から算出した情報によれば今見えている一番近い陸地はザフト勢力圏で、ジブラルタル基地が近いはずだ。救援さえ来ればとりあえず助かるだろう」
「りょ、りょーかい」

クールを装っているが、その顔は包帯がなかったとしてもハッキリと屈辱の二文字が浮かんで見えた。
サッとデュエルに飛び移りコックピットに乗り込んでいく様子を見届けてから、腕の中でぐったりしているナマエを見る。

「お前、ほんと、あいつに愛されてるな」

かと言って俺が諦める訳じゃないけどな、と呟くと、ナマエを抱きかかえてセルシウスの水に沈んでいる足の方へ向かった。




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