目の前で起きた大爆発の後に、先ほどまであったガモフが消え、残骸だけが宙を漂っていた。ここ一ヶ月で何度某然としたか分からないが、ナマエはここが戦場であることも忘れ、無防備になっていた。しかしそれも一瞬のことで、アークエンジェルから何かが発射されたのに気づいて我に帰る。

「と、とりあえず、今は、戦況を…」

あのシャトルは何なんだろうか。アークエンジェルが劣勢であることに恐れをなして地球軍の兵が逃げ出そうとしているのか。

(じゃあ、ミリィやトールも…?)

いや、降下シークエンスを始めている今、アークエンジェルに人手が必要なのは明らかだ。まさかこの土壇場にきて兵が逃げ出すようなことはないだろう。
ストライクとデュエルが激闘を繰り広げている中、そのシャトルが『呑気に』その間を通過した。





「まさか、」

デュエルの銃口が、自分からシャトルに向かった。その意味するところを知って、キラは未だかつてないほど嫌な汗をかいた。

あのシャトルには、あの子が乗っているんだ。
純粋な目で、自分を都合の良い兵器と見る大人たちと違って純粋な目で見てくれた、目の前にあるこの紙の花をお礼にってくれた、あの子が乗っているんだ。

目一杯手を伸ばす、きっと守れる。守らなきゃいけない。届け、届け。

「やめろぉぉぉぉっ!」

そんなすがるような思いも虚しく、デュエルのライフルが、真っ直ぐにシャトルを貫いた。

『守る』のは、簡単なことではなかったと、同胞を撃ってでも守り抜く覚悟がなければ何も守れないと、半端な覚悟ではなにも守り通せないと、ハルバートンの言っていた意味をようやく理解した。





「なっ、機体が?!」
≪地球の重力か?≫

気付けばかなり地球が近くにあり、その重力により制御が効かなくなっていた。どれだけバーニアを吹かした所でどうしようもなく、イザークとディアッカは慌ててOSを確認する。

「単体降下は可能か…しかし」
≪…っても、…しかねぇ…な≫

Nジャマーの影響なのかろくに通信も聞き取れない。しかし制御が効かなくなった以上、死にたくなければやることは一つ。この単体降下シークエンスを成功させることだけだ。

機体内のアラートがうるさい。危ないことは分かっているからこの降下に集中させて欲しいものだ。

(意識を失わないようの配慮なのか?やかましいだけだ!)

暑くてイライラしている。ふとカメラを向ければヴェサリウスが遠い。そういえばナマエはどうなったんだろう?彼女は無事なのか?

バスターとも入射角の違いから徐々に距離が離れていく。このままザフトの勢力圏に落ちることができれば良いが、と嫌なことばかりを考えていた時だった。

青い、宇宙とも地球とも思わせるようなカラーリングの機体が猛突進して来た。一瞬敵かと思ったが違う。これはセルシウスだ。勢いよく突っ込んで来たセルシウスはデュエルの腕をとったまま、そのまま少し離れたところにいたバスターに合流する。そしてそのまま最大出力でバーニアを吹かした。

「ナマエ!ムダだ!やめろ!」





単体降下シークエンスが可能。
そんなことは分かっていたが、飛び出さずにはいられなかった。
いくらスペック上可能だとはいえ、中には人が乗っていて、いくらコーディネイターと言えども急激な暑さに耐えきれるかどうかはわからないのだ。

≪ナマエ!ムダ……ろ!≫

イザークが何か言っているようだが、おそらく今すぐこの手を離して私は宇宙に戻れと言いたいのだろう。
セルシウスの機体は速度を出すためにある程度軽量化し、逆に射出口を増やした機体だ。まだ単機であれば、この距離でも宇宙に戻ることができるだろう。

(でも単機である程度の飛行が可能であるなら、上手くやれば三体同時の降下時でも機体にかかる摩擦を抑えられるかもしれない)

少しでも生き残りたいのだ。大切な仲間を、大切な人を、少しでも生き残らせたいのだ。

イザークがまだ何か吠えているがもう内容はと全くわからない。最大出力で機体を動かしているせいでもともと暑い機内がさらに暑くなる。でもまだ大丈夫だ。まだ、まだ大丈夫だ。

(イザーク様、ディアッカ…地球についてからはよろしくお願いします…)

たとえ意識がなくなっても、この操縦桿を前に倒してこのペダルを踏み続ければいい。

誰でもいい、わたしの体を支えて。

そう祈って、数分後、雲を抜け、青い海が見えた時、意識を手放した。





ーーーOK。あとは任せてよ。
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