キラをはじめ、他のヘリオポリスの学生たちを除隊させたツケとでも言うのだろうか、それがこの戦艦内でダイレクトに響いているようだった。ナタル・バジルールの武装システム立ち上げの命令は的確であるが、それでもこの人員不足のため手が回っていないのが現状だ。ハルバートンやマリューの計らいで今頃彼らはあの避難民たちとランチの中にいるのだろう、とトノムラは忙しさのあまり小さく舌打ちをした。

「すみません、遅れました!」

そう言って入ってきた居るはずのない子どもたちが、『いつも通り』の席に各々着いた。なぜここに…とマリューが目を見開いていると、ナタルが当然のように彼らが志願兵であることを告げた。もしかしたらキラ・ヤマトも…、と一瞬期待とも困惑ともつかないような何かがマリューの頭を過ぎったが、CICについたサイがはっきりと答えた。

「キラは降ろしました」
「俺たちじゃあいつの代わりまでは無理かもしれないけど、ま、ないよりはマシでしょ?」

トール、ミリアリア、カズイも慣れた様子で席に着き仕事をこなす。
マリューはまだ複雑な感情が消せないまま、今は目の前の敵を何とかすることを考えなければ、と目の前で激戦を繰り広げている相手のモビルスーツを睨んだ。










「セレウコス被弾、戦闘不能!カサンドロス沈黙!」
「アンティゴノス、プトレマイオス撃沈!」
「ラファエロももう時間の問題です!」

ハルバートンの乗るメネラオス艦橋にオペレーターが次々に被害を報告していく。戦闘開始たった六分で五隻を、それも五つのモビルスーツがやってのけたというのだ。ホフマンが俄然として立ち上がった。

敵のモビルスーツはある程度性能は理解しているはずだった。それなのに、あの未知の機体…機体識別番号はGATなどと名乗っているふざけた敵の機体はあまりにも速すぎる速度で戦場を混乱させていた。僅かに深い青の機体はブリッツのミラージュコロイドほどのステルス性はないにせよ、この宇宙で目視しようと思えばその速さと色使いで見にくいのは間違いない。

(あの四機のデータ抽出をしてこの短期間で新型機をロールアウトしてくるとは…やはりザフトの技術、恐ろしいな…)

ヘリオポリスでの情報漏洩を恨んでも戦局が変わることはなく、むしろ悪化する一方のこの状況で、ハルバートンは覚悟を決めた。















高速で飛び回るセルシウスの中で、ナマエは僅かに不安を抱えていた。

(地球が近い…)

近いと言ってもまだ距離はあるが、それでも普段真っ暗な宇宙で戦っていることを考えれば、この青く光る地球は存在感があった。

「っと、」

敵艦の主砲からビームが照射される。難なくかわすことができたが、やはり後方支援タイプの味方からはしっかり見られていたようで。

<おいおいナマエ、ぼーっとしている場合じゃないぜ?>
「分かっています、何となく嫌な予感がしたので」
<嫌な予感?>
「…ディアッカ」
<ん?>
「アークエンジェルが…第八艦隊から離れていませんか?」

ディアッカの茶々入れを適当にあしらっていたが、アークエンジェルの動きに気づいたナマエは仲間に意見を求める。勘の良いディアッカはすぐにそれが意味することに気づいた。

<まさか…地球に降りる気か?!>
「戦局が悪いから地球に逃げようということね…逃がさないわ」

自分でも冷ややかな目になったことが分かった。

(はやく出てきなさい、キラ。でないとこの艦のように、その大天使も沈めてしまうわ)

何機目か分からない戦艦を淡々と沈黙させながら、ナマエは降下シークエンスを続けているアークエンジェルを睨み付けた。
その時だった。アークエンジェルのカタパルトからオレンジ色のモビルアーマーと、ストライク―――キラの機体が出撃してきた。前回までの戦闘であれば極力避けていただろうストライクとの交戦。今のナマエには戦う理由こそあれ、避ける理由はなかった。

ディアッカが何かを話していたような気もするが、もはやそれは耳に届くことはなく、フットペダルを踏み切ってストライクに接近しようとした。この機体なら誰よりも先にストライクへ、ストライクのパイロットの元へいけるはずだ。誰よりも先にストライクのパイロットを殺せるはずだ。

(あともう少し!)

速い、セルシウスとなら、きっとなんでもできる。
そう確信したときだった。

「デュエル!?」

執念なのか、デュエルがセルシウスより先にストライクへ切りかかっていた。その執念に負けたせいなのか、自分のことしか考えずに戦場を攪乱するという仕事を忘れていたことに気づく。この戦いの目的はアークエンジェルを打ち落とすこと。もちろんストライクの奪取・撃破も目標にはあるだろうが、今やるべきことは地球に大天使を降臨させることを防ぐことだ。今イザークがストライクに集中しているのなら、自分はその足の速さでストライクを抜き、アークエンジェルに追いつき、撃破する。
そこまで考えてようやく頭がクリアになった。

(え…?)

ふと周りを見渡して気づく。アークエンジェルばかりに気を取られ、自分の後ろに注意していなかった。それは注意する必要がないと思っていたからだ。自分の母艦は後方支援をして、必ず帰りを待っていてくれると信じていたからだ。

その母艦、ガモフが、なぜか、最前線にいた。

第八艦隊の中へ突っ込み、駆逐艦を通りすがりに撃破していき、メネラオスにその砲撃を着弾させる。炎をまとい傾きかけているメネラオスも、最後の反撃と言わんばかりにその主砲が火を噴き、ザフトの、勇猛な艦を、ガモフを、爆破した。





<ゼルマン艦長!!>

ニコルの悲痛な叫びが、スピーカー越しに聞こえた。




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