春の柔らかい温度というものは恐ろしい。『春眠暁を覚えず』という言葉を痛感させるからだ。冬は外が寒いからベッドからでられないが、春はベッドから出るのは容易いがどこにいようが眠い。昨日なんかは電車に乗っているところを強烈な睡魔に襲われ、降りる駅を通り過ぎてしまったぐらいだ。だが花粉症ということもないので春のこの雰囲気はすごく好きだ。

「ただいまー」

日曜日の朝。天気が良いからちょっとした大掃除を始めた奥さんを手伝おうと足りなくなった洗剤や、頑張ったご褒美に昼ごはんを作ってやろうと食材を買って帰ってきた。玄関を開ければもう掃除は完璧ですと言わんばかりに一輪挿しに花が活けてある。匂いのきつくないお香まで焚いてあって、なんだもう終わったのかと時計を見れば結構な時間が経っていた。

「名前〜」

廊下をパタパタとスリッパの音と共に歩き、リビングに来たがこれまた綺麗になったリビングがあるだけで誰もいない。

(掃除が好きって確かに聞いてたけど、早過ぎっしょ)

男の出る幕がないとは、何と無く虚しい気もしたが、優秀な奥さんをもらえて幸せだ。

(にしても、どこいった?)

声をかけても返事はない。どこだどこだーなんて言いながら探せば、案外すぐに見つかった。道理で返事がなかったわけだ。

「名前ちゃーん…」

冬物のシーツやら掛け布団はベランダに干され、白くてサッパリしたシーツが引かれたベッドに彼女はいた。ベランダも開け放たれているので暖かい風が舞い込んで来て、最初に語った力説を思い出させる。

「おつかれ」

頬をつついてやれば起きないものの『うーん』と寝言を一つこぼした奥さん。可愛い。枕もなにも置かれていない真っ白なシーツに顔を摺り寄せる彼女の横に自分も寝転がると、自分を感じ取ったのかふにゃりと笑いなんとなく距離を詰めてきた。すると睡魔が伝染したのか、急激に瞼が重くなる。

「名前、」





白の魔力に沈む





(あぁ、ダメだ)
(ちょっとだけ、おやすみ)
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