アークエンジェルが、不本意ながら『無事に』地球連合軍第八艦隊と合流し、ナマエは複雑な気持ちを抱えたまますることもなく展望室で浮いていた。ここは少し行けば医務室もあるので、気になればイザークのところへすぐに向かえるし、何も考えたくない時には果てしない宇宙を眺めるのが都合がいい。後ろからヴェサリウスが合流しようとしているのが見えて、そう言えばアスランに助けてもらったお礼をちゃんと言ってなかったことを思い出す。そしてふと忘れていた出来事も思い出した。

『次に戦う時は、俺がお前を撃つ!』

キラとアスランが、知り合いだった。仲良しで、友達だった。あの会話で、少なくともアスランが撃ちたくないと思っていることは明白だった。ずっと暗い顔をしていたのは、そのせいだったのだ。友人が敵など、考えたくもない。

(アスラン…)

不幸を比べる気などないが、自分とどちらが辛いのだろう。
数ヶ月だけ一緒だったが最近まで仲良く笑いあっていた自分とキラたち。何年も一緒だったがそれでも長い間会っていなかったアスランとキラ。

(後で通信飛ばしてみよう)

きっと彼のことだ。ナマエには気にするなとか言いながら自分は悩みに悩むのだ。ラスティのことで何度も励ましてくれたのだから、話を聞くぐらいはできるだろう。

(私は、もう、割り切ったから…)

大切な人を傷つけられて、それでも偽善者を演じるほど、自分は大人じゃない。










「目標はアラスカですか」

アデスが地球連合軍の最重要拠点であるアラスカの名を挙げた。アークエンジェルはすでにゆっくりとだが高度を落としている。大気圏に突入され、アラスカに入られると、そう簡単に手出しができなくなる。ザフトの庭である宇宙にいる間に何とか沈めたいものだ、と内容こそ困ったことだと言っているが、その口ぶりに一切の気後れも焦りも感じられないクルーゼに、アデスは頼もしいような不気味なような感覚を持った。

「ツィーグラーにジンが六機とこちらにイージスを含めて五機。ガモフにもバスター、ブリッツ、セルシウスは出られますから…」

イザークは出られそうにないので勘定にデュエルは伝えなかったが、クルーゼには勝利が見えたのだろうか。本当に笑っているのか分からないが、ふっと笑みを漏らしたを見逃さなかった。

「セルシウスの性能も見せてもらうとしよう。…知将ハルバートン、そろそろ退場してもらおうか」










<全隔壁閉鎖、各科員は至急持ち場につけ!繰り返す…>

艦内放送が鳴り響き、待っていましたと言わんばかりにナマエはヘルメットを掴んで更衣室を出た。クルーゼから直々に機体の性能を見たいと言われていたので、戦闘になるであろうということは薄々感づいてはいたのだ。イザークはきっと出れない、だから代わりに仇を取ろうとそう思った瞬間、すぐ隣の医務室が騒がしくなり、見知った顔が見覚えのない包帯を巻いて出てきた。

「イ、イザーク様!」

思わず駆け寄ればイザークもこちらに気付いたのか、出撃を止めようとしていた医師を本格的に無視してナマエの腕を取った。

「あの、」
「お前も、休んでいろと言いたいのか?」

彼の声に怒気が含まれるのを感じた。プライドの高い彼のことだ。間違いなくその自尊心は傷つけられ、この汚名を濯ぎたいのだろう。

「止めたいところですが、聞かないでしょう?」
「当たり前だ!こんな屈辱を受けて、負け犬のようにガモフで待機していろと?」
「・・・ですから、」

死なないでください。
彼にそのちいさな一言が聞こえたかどうかは分からないが、埃と実力の証明であるザフトの赤い制服の裾を、握った。
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