今日はOBとして遙々ここ海常高校へ来たわけだが、相変わらず黄瀬のファンが体育館前にたまっているのを見て、思わずため息をついた。森山なんかは宝の山だとか言っていたが、理解しがたい。入り口という入り口は全て固められているため、小堀が大人な対応で『すみません、通してください』と言うと案外あっさりと道を譲ってくれた。一応去年からの黄瀬ファンは自分たちのことを覚えてくれていたようだ。

「ついに俺たちも有名人か?!」
「違うだろう。…まぁ、有名人と言ったら有名人かもしれないが、アイドルと同じように俺たちも推しメンに選ばれるぐらいにはなったかもしれないな」
「あーやっと入れたな……って、森山は?本当にさっきまでいただろ、ここに」
「さっき可愛い子見つけたとかでナンパしに行った」
「連れ戻してこい」
「分かったよ」

小堀とも別れ、一人体育館に入っていくと目の前を走り抜けて、いい音を立ててダンクを決める黄瀬が目に入った。

「あっ!笠松先輩!お久しぶ(り)っす!」
「おう。つっても卒業したのが先月だけどな」
「毎日会ってたこっちか(ら)す(れ)ば、一ヶ月でも久しぶ(り)っすよ!」

早川の発音も卒業して落ち着いた今となっては心穏やかに聞けないこともない。昔はイライラしたなーなんて少し大人ぶってみる。

「あ!笠松先輩!お久しぶりっスー!!」
「ダメだ、やっぱ黄瀬はうぜぇ」
「酷いっスよぉー!」

大人ぶるのも楽じゃない、と出会い頭早々に背中を蹴りつけた。なんだ今のダラダラした走りは!と怒鳴りつけると、どうも青峰のパーフェクトコピーの練習らしい。物は言いようである。

「あれ?他の先輩は…?」
「あぁ、森山が女子ナンパしに行ったのを小堀が回収しに行った」
「可愛い女のコでもいたんスかね?」
「最近見境なくなってきたからな、あいつ。案外普通の…」
「そんなことない!あの子は可愛かった!」
「森山先輩!」
「おぉ、回収お疲れ」
「あぁ。ちなみに可愛かったよ。普通に」

女子生徒への擁護なのか、小堀は苦笑いしながらそう呟いた。

「一年生で小さくてクールビューティーだった!あの子は今にもっと美しくなる!」
「珍しく会話が成り立ってたよな。森山の難しい口説き文句に何と無くだがついて来てたよ」
「それは逆に興味があるっス!」
「名前聞いてきたんですか!?も(り)山先輩!!」

すると当たり前だと言わんばかりのドヤ顔と共に森山は大きく息を吸った。

「名字名前ちゃんだ!」

ぼすん、とボールが落ちる音がした。黄瀬だ。ポカーンといつもに増して間抜けな顔をしている。

「名前っち?」
(っち!?)

黄瀬がそんな風に呼ぶということは、もしかしてバスケ関係者か何かか。慌てたように女子の群れに突っ込んで行って逆に通してもらえず撃破されている黄瀬を見て、小堀にその名字名前を連れてくるように行った。俺は顔を見ていないから、連れて来ようにも分からない。一分も経たないうちに女子の群れの中から連れ出されて来たのは、バスケをしているとは思えない弱そうで小柄な女子生徒だった。

「名前っちぃぃぃ!!!」
「邪魔です」

ピシャリと言い放ち黄瀬が物を投げつけられているのを見れば、普段もててる分気分がいいのは俺だけじゃないはずだ。

「それ、落ちてましたよ。黄瀬センパイのでしょ?」

名前の書かれていない数学のノートだが、この女子生徒は筆跡だけで黄瀬だと分かったらしい。しばらく某然としていたが、弾かれたようにそのノートを受け取り、ダッシュでロッカールームに駆け込んで生徒手帳を持って戻ってきた。

「名前っち!」
「はい」
「約束の!」
「はい、受け取りにきました」

そうして黄瀬が差し出した何かのラベルを、名字は『可愛い』と呼べる微笑みを浮かべて受け取った。



眩しいぐらい輝く



(このラベル、卒業の思い出に貰えないっスか?)
(分かりました)
(その代わり、)
(?)
(次俺に会いに来てくれたら、その時はお返しするっス!)




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