高校生活も2年目を迎えさらに勢いづいたバスケ部は去年よりも激しく、新入生の部員勧誘に力を入れるようになった。去年までとは違い勝手に寄ってくる奴も沢山いるが、積極的に勧誘してこそ良い人材も入るんじゃないかとチラシを配る。相変わらず無口な水戸部だけは和やかな表情のみで勧誘しているが。

「君!バスケットやらない?」
「マネージャーも募集中です」
「マネージャーのお礼はマネーじゃない!キタコレ!」
「おいもう止めろ。今のでひいた奴が一人入部届出さずに帰って行っただろうが!」

今年で最後と言うこともあってセンパイもいっぱいチラシを配っているし、新しい後輩が入ってくるというのは何となくわくわくしないでもない。バスケだけしていれば良い派の火神でも持っていたチラシの束を配り終わった後だった。

「すみません」
「ん…?あ、一年生か?」

割と小柄な一年生らしい女子生徒が火神を見上げるために首をおもいっきり傾けて声をかけてきた。『バスケットボール部ですか?』と聞かれて、すぐにあることを思いついた。さっきセンパイも言っていたくらいだ、マネージャー志望だろう。

「っと、確保確保」

とりあえず部員希望は捕まえてこいと監督のリコに言われているから、かつての小金井のように首根っこを掴んでこようかと思ったのだが、さすがに女子生徒をそんな風に扱うとロードワークを十倍に増やされかねないので、小脇に抱えて持って行く事にした。

「え、ちょ、」
「かーんとくー!連れてきたぜ!マネージャー!」

マネージャーと聞いて目を輝かせた監督がブースから立ち上がり、その次の瞬間表情筋をひくつかせた。

「あの、私違うんですけ「この、バ火神!!!」
「ってぇ!」

ものの見事に鳩尾に拳を入れられて、危うく女子生徒を落としそうになる。

「何考えてんのよ!女子生徒は担いじゃダメなんて確かに教えてないけど、常識でしょ!?」
「マネージャー希望だって言うから、部員だろ?確保しろって…」
「あの、」
「確保っていうのは腕掴んで引っ張ってこれば済む話でしょ?!」
「でも逃げるかもしんねーだろ!」
「すみません、」
「逃げるような子は部員希望じゃないでしょ!?」
「体つきの良い奴は引きずってでも連れてこいって言ってた、じゃないっすか!」
「あの!バスケ部で人を探してるんです!」

女子生徒が力一杯声を振り絞って叫び、ようやく監督と火神の言い争いは収まった。

「人、探し?」
「中学の時の先輩がここにいるはずなんですが」
「バスケ部で先輩となるとだいぶ人数は限られてくるけど、だいたいこの辺にいるわよ」

キョロキョロと首を動かして探し出そうとしている彼女を見て、あることに気づく。たいていの部員はここら辺にいるが、この人混みの中じゃ100%のステルス性で見つからない部員が一人いる。手伝ってやりたい気もするが、もしその部員なら、自分でもこの人混みの中から見つけ出すのは困難だ。

「あ、」

女子生徒の首の動きが止まる。その視線の先には伊月や日向がいた。すたすたと走り出した彼女が何となく心配で走りはしないがついて行くことにする。伊月の前を通過し日向のチラシをスルーして、水戸部の後ろに回り込み、とんとん、と目的の人物の肩を叩いた。

「黒子センパイ」
「え………?」
「「「「黒子が見えた!?」」」」

くるりと振り返った黒子自身も驚いたと目を見開いている。黒子を見つけられるのなんて、秀徳のPGだけだと思っていたのに。彼女はこの雑踏の中、黒子を見つけた。

「お久しぶりです」
「あ…お久しぶりです、名字さん」

何だ何だ、と黒子と名字って呼ばれた女子生徒の周りに集まる部員たち。『なんだ、また黒子の彼女とか言うんじゃないだろうな』とか嫉妬の声もちらほら。
誰なんだ、と目線だけで訴えると、目が合った黒子が『紹介します』と部員に向かって言った。

「帝光中の後輩だった名字名前さんです」
「え、バスケ部?!」
「マネージャー!?」
「違います。彼女は美術部です」
「美術部?何で?」

美術部が何をしている部活かなんて言われなくても分かる。絵を描いたりする部活だ。それが黒子とどんな関係があるのか。まぁ本を読んだりするのが好きらしいから、それ経由かもしれない。

「学校に彼女の絵が飾ってあったんです。それで彼女のことを知りました」
「ってことはすごく上手いのか?その絵」
「はい、あの青峰くんが認めたぐらいですから」
「「「「えっ?!」」」」

それはすごいと口々に言うセンパイたち。あのバスケ以外に興味がなさそうどころか興味がないと断定できる青峰を美術分野で納得させたなんて。当時はそれほど心が澄んでいたのか。想像したら笑えた。

「それで、……」

名字が消えそうな声で何かを伝えようとしていた。センパイたちは聞こえていないみたいだったが、俺と、黒子はちゃんと聞こえた。


「青峰センパイは、あれから、どうなったんですか?」


心配そうな彼女に、黒子がキョトンとした顔で瞬きをしていた。
そうだ、青峰と言えば帝光中時代の途中からバスケに見切りをつけてしまっていたはずだ。それがどうなったのか、彼女は知らないらしい。

「連絡、取りたかったんですけど………あの青峰センパイに会うのが、怖くて」

ぽんぽん、と黒子が名字の頭をなでる。

「大丈夫ですよ」
「ま、時間はかかるかもしれねーけど。もう大丈夫だろ」

良かった、と穏やかに笑う彼女の横を、桜の花びらが通り過ぎていった。





バニラの香りを追いかけて





(どうして桐皇に行かなかったんですか?)
(もちろん、あの青峰センパイは見たくなかったのと、)
(?)
(推薦が来ていたのはあったんですが、私の絵を最初に見つけてくれた黒子センパイに、もう一度会いたかったんです)











明音さま。プロムナード未来続編のリクエストということで、いかがでしたでしょうか?
お相手指定無しでしたので、今後続編も書くつもりですので第一弾の黒子で書かせていただきました!
リクエストありがとうございました。
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