帰還してすぐにデュエルの元へと行くと、脇腹の部分を綺麗にえぐられた跡があった。そこはコックピットのすぐ近くで、あっという間にパイロットスーツの中に、嫌な汗が広がっていく。動かないデュエルに、出てこないイザーク。メカニックたちが大勢集まってきてなにやら作業しているようだが、ふわふわと浮いている自分は、何もできなかった。

「ナマエ!」
「ニ、コル……」

デュエルを抱えて戻ってきたブリッツのパイロットことニコルもわずかに嫌な汗を流しながらナマエに歩み寄ってくる。何があったの、となるべく冷静に見えるように手を握りしめながら聞けば、目ざといのか、解くようにとそっと手を握られた。

「生きてはいます。通信で、声は聞こえてきましたから」
「生きて『は』?」
「……怪我をしているみたいです。『痛い』って、呻いていました」
「イザーク様が?」

あのプライドの高い人が『痛い』と言うなんて。信じられない。多少の切り傷でさえ耐えて凜々しく立って居るようなあの人が。むしろアスランに突っかかっている時の方がよほどうるさいのだが。

「じゃあ、早く手当をしないと!」
「ですが…」

まだ出てこないイザークに慌てているメカニック。

「どうやら、電気系統がダウンしたようで…コックピットのハッチが開かないようです。ストライクのパイロット、すごい技術ですね」

あぁ、そうだ。
キラが、やったのか。
キラが、あの人を、怪我させたのか。

ふつふつと沸いて出る怒りに、周りが見えなくなっていると、ディアッカがぽんと頭を叩いてきた。

「救護班呼んどいたから。とりあえずハッチ開くの待とうぜ?」
「そう、ね」

そうだ。メカニックの方がよっぽど電気系統には詳しいのだ。なら、任せるしかない。握られているニコルの手を握り替えして、肩に回されたディアッカの腕に集中する。でなければ、間違いなくキラを恨んでしまう。

(もう、次は、手加減しないわ)

イザークをここまで痛めつけた相手に本気を出したところで、敵うとは到底思えない。だが、ザフトレッドというプライドはもちろん自分も持っているし、たった数ヶ月共にいた友人と、長い時間共に暮らした家族同然の相手、どちらかを選ぶとしたら、明白だろう。

しばらくするとデュエルが復活したのか、ハッチのロックが外れたようで、力業でハッチを開けると、赤い水滴がぷかぷかと出てきた。血だ。

「っ…」
「っと、待ってろよ」

ディアッカの腕が離れ、床を一蹴りしてイザークの元へと向かう。出てきたイザークのパイロットスーツは部分的に赤黒くなっており、明らかに元の繊維の色ではないと分かる。急いで救護班が駆け寄り、ディアッカが傍でたたずむ中、救護室に運んでいった。

「イザークは、」
「電気系統がやられたとき、中で小規模な爆発があったみたいだぜ?」
「爆発!?」
「ナマエ、落ち着けって。爆発自体はたいしたものじゃなかったみたいだし、パイロットスーツも少し焦げてた程度なんだけど、ヘルメットのバイザーが割れて…顔に、傷を…」

最後まで言い終わる前にディアッカは口をつぐんだ。そんなに、私の表情が酷かったのだろうか。再び頭をなでられ、着替えて来いよ、と更衣室へ背中を押される。

「後で様子を見に行きましょう。僕たちができることは、今はありません」
「そう、ね」

私にできることは何もない。

無力感にまたしても怒りを覚えながらも、何度も何度も戒めるように復唱し、ナマエはロッカールームへと消えた。




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