緑間真太郎と言えば唯我独尊で謎のアイテムを何故か手持ちしている事で有名だ。そんな彼を好きになったのは何故だったのか、覚えていない。喋ったきっかけは私と高尾が同じ中学だったからだ。

『え、高尾くんも秀徳だったんだね!』
『ん?お、名字じゃん!ひっさしぶり!』
『…………』
『あ、えっと、この突っ立ってるのが真ち『緑間真太郎だ』』
『よ、よろしく!私は名字名前です!』

真ちゃんって呼んだら怒るみたいで、私はずっとそれから緑間くんって呼んでる。それから数日経ったある日、高尾くんから呼び出しがかかった。内容は明日の試合を見に来いよ、真ちゃんのすげーシュート見れるし、俺ちょーかっこいいから、と言うものだ。

マネージャーさんに差し入れだけ渡して会場の隅っこの方で秀徳の試合を待つ。ぞろぞろと入場してくるオレンジ色のジャージが見えた。高尾くん、案外小さいな。緑間くん、見つけやすい。そんな感想を抱いていると、キョロキョロしてた高尾くんと目があって、隣を歩いていた緑間くんに私を指差して教えてるみたいだ。眼鏡を直しながら私の方を見る緑間くん。その隣の高尾くんはブンブンと手を降って、金髪の先輩らしき人に叩かれている。

「が、がんばってね!」

この騒がしい中、私の声が聞こえたのかは分からない。けど、叩かれている高尾くんはともかく緑間くんは僅かに頷いて、くるりと背を向けてベンチへ行った。





圧倒的な試合だった。ゴール付近は体の大きな先輩がすごい迫力で守っているし、高尾くんは的確にパスを送り出している。そして外は、

「すげー!秀徳の緑間!まだノーミスだぜ?!」
「さすがキセキの世代!やることが違う!」

周りで騒いでいる人達が言う通り、緑間くんはスリーポイントラインの外側で、面白いぐらいボールを入れている。ただ驚くのはその正確さと高弾道だ。ゴールの縁に触れることなく高い位置からほぼ垂直にボールを落とす。バスケがあまり詳しいわけじゃないが、すごいってことぐらいは分かる。

(頑張れ、なんて、いらなかったかな)

少しだけ寂しく感じつつも、試合終了直前。緑間くんが高尾くんからリターンパスをもらった。その位置はセンターライン。要するに試合が始まる時にいた位置だ。

(え?)

緑間くんが、そこからスローモーションに入った。
バスケは詳しくないけど、授業でやったことはある。その時スリーポイントシュートが難しいことは知った。女子だからというのもあるけど、重いバスケットボールを遠くまで飛ばすのは大変なのだ。それなのに、当然のように緑間くんはセンターラインからボールを放った。

(う、そ)

高い軌跡を描いて、ボールがゴールへと向かう。いくらなんでもそれは、という不安が、いつのまにか手を固く握りしめて目をぎゅっと閉じて、結果だけを待っていた。

スパン、というボールがネットを潜る音がして、ブザーが鳴り響く。

(入った、の……?)

愕然とした相手チームに、当然だと言わんばかりの秀徳チーム。そこに不機嫌な顔をした緑間くん。勝ったのに、不満なのか。沸く会場に同調して喜べば高尾くんがキメ顔で私に親指を立てて来たから同じように返した。

とりあえずおめでとうと伝えるために、選手が出てくるであろう控え室の廊下の先で待っていた。これがモデルさんがいるという海常の控え室前なら待つことも許されないだろう。ガチャリ、とドアが開く音がして、さっき高尾くんを叩いていた金髪さんが出てきた。

「お、お疲れ様です!」
「あ、さっき高尾が手ふってた……」

金髪さんは宮地さんと言うらしい。そういえばいつも張り出されるテスト順位で三年生の欄の上位に名前がその名前があったことを思い出した。

「で?」
「はい?」
「お前、高尾か緑間、どっちの彼女?」

……。
あれなんだろうか。今時試合を見に来る女の友達ってイコール誰かの彼女なんだろうか。それにしたって何故その二択なんだろう。違いますよ!と否定したその時、またドアが開いて高尾くんが飛び出してきた。

「名字ー!試合見に来てくれてありがとなっ」

ぎゅううう、と骨が折られるんじゃないかっていうぐらい強く抱き締められて、ぎぶぎぶ!と叫んだとき、強い力で引き離された。緑間くんだ。

「みど、」
「高尾、いい加減にしろ」
「良いじゃん?名字誘ったの俺だし?」
「意味がわからないのだよ」

とりあえず二人ともおめでとう!と叫ぶと、緑間くんが私を見下ろしてきた。正確にはいつも見下ろされているんだけど。

「そういえば、」
「?」
「あれはどういうことだ?」

どういうことだ、とはどういうことでしょう。そう言うと緑間くんは眼鏡を直して、言い放った。


「なぜ、あの時、俺のシュートを見なかった?」
「え?」
「目を閉じていたのだよ」

最後のシュートのことだろうか。あれは入るか不安で思わず神様にお祈りをしていたんだ。そう告げればそれはもう不満そうにため息をつかれた。






祈るぐらいなら、その目を開けろ。





俺のシュートが落ちるわけがない。
ただゴールする瞬間を、その目に焼き付けろ。

その言葉に完全に惚れさせられたのは、後になって分かった。









(真ちゃんずりぃ!)
(名字を手に入れられたのは、人事を尽くした結果なのだよ)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -