気づいたら、玄関だった。
ダッとリビングまで行って日付を確認すると、日付どころか時間さえあの時からそんなに変わっていなかった。まさか夢だったのかと一瞬疑ったが、着ている服は自分の服ではなく、今の日本には売っていないであろう少しセンスのずれた服だ。それに一週間分の記憶が全て残っている。

ため息をついて、家の中に入った。そういえばお風呂入っている途中だったな、と思い出す。もう一度風呂に入れば彼女の世界へ行けるのだろうか。

(ま、それはお互い望んでないはずっスね)

自分の足でこの世界に帰ってきた。それはもちろんこっちの世界ではやりたいことがいっぱいあって、モデルの仕事もまだまだ続けたくて、だから後悔はしていない。
でも、

(寂しいっスよ。……分かれてから数分しか経ってないのに、耐えられるんスかね、俺)

服から下着から今着ている全ては思い出の品になるだろう、なんて感傷に浸りながら上着を脱ごうとして、ポケットに何か入っていることに気づいた。
この包装紙は、さっき、自分が彼女にあげたプレゼントの包装紙と一緒だ。

「へ、」

まさか、突き返されていたのだろうか、と不安になったが、大きさがどう考えても違う。そんなはずはないだろう。開けてみると、『Dear Ryota』と書かれた手紙と、小さな何かが入っていた。
さっき探していた『シンプルなもの』はこれだったのか、と納得したと同時に、写真を撮りたがらなかった彼女がこんな形でプレゼントを贈ってきたことに納得がいかなくなった。だって、写真なんかよりももっと拘束力のある(嬉しいけど)これをプレゼントして、自分が嬉し泣きしないとでも思ったのだろうか。

「ってか、全部英語じゃないっスか…」

頬を伝う涙をそのままに、手紙を開けば流暢な筆記体で書かれた英語が出てきて、そういえばなぜ自分は当たり前のようにあっちの世界で英語を理解していたのか、不思議だ。

ファンレターはそこそこ読んでいるし、でももし英語で書かれたファンレターならきっと読まない。でも、これは間違いなく彼女の字で、最近は筆記体じゃなくてブロック体で英語を読み書きしているとは言え、何が何でも読むしかない。

(赤司っちとか緑間っちならすぐに読める気はするんスけど)

自分の大切な彼女からの手紙を、真っ先に読むのが他の野郎なんて絶対嫌だ。

明日はモデルの仕事があるし、早く寝なくちゃいけないんだけど、今すぐ読まなければいけない気がして、インターネットで筆記体の書き方みたいなサイトを立ち上げながら、手紙の文字を解読し、ブロック体へと写していった。










「黄瀬ぇ!」
「うっス!」

笠松先輩からの鋭いパスを受け取り、ドリブルで切り込んで、ダンクを決める。お決まりのパターンかもしれないが、練習の見学にきてくれていた女の子たちがキャーキャー喜んでいた。

「すごい!やっぱ黄瀬くんかっこいいよねー!」
「なんかこの前?からずいぶん色気みたいなの出てきてない?」
「えー?そうかなー?」
「も、もしかして!恋とかしてる感じ?」
「えー、やだぁ」

何となく聞こえてきた会話に、女の子って鋭いんスねーと独り言のように呟けば、隣で並走していた森山先輩がハッとこっちを見てきた。

「そうなのか?!」
「へ?」
「恋してるのか!?」
「んー、どうでしょーね」
「くっ、そいつ以外の女の子紹介しろ!!」

ぎゃーぎゃー騒ぐ森山先輩となぜか自分に笠松先輩の叱責が飛び、自分だけが蹴られる。理不尽。

「ちゃらちゃらすんな!明日は試合なんだから、早く帰って休みたかったら練習さっさと終わらせろ!」
「はーい」

前からお洒落として使っていた首から下がったネックレスが揺れる。

「え、黄瀬くん恋してるの?!」
「ちょっと、その人どこよ。会って仲良くなって黄瀬くんの寝顔写真ぐらいもらう!」
「野心家なのか野心家じゃないのか…」
「裏庭に呼び出してしめるとか、考え方が古いのよ」
「おっとなー」

この中の女の子たちの何人が気づくだろう。

「いいなー黄瀬くんの恋人」
「え、ってか恋してるだけなら、まだつきあってない?」
「じゃあまだチャンスあるのかなぁー」
「えー、いけるんじゃない?」
「頑張ってみちゃうー?」
「止めとけって、3組の田中さんが本気を出したらあんたなんか瞬殺されるって」
「酷いー」



自分のしてるネックレスの指輪が、変わったことに。









For 7 days




『私の顔とか、どんな奴だったとか、忘れてもいいから。
私が存在していたことだけは、忘れないで。

いつか私が貴方の世界に行くことができたら、
それを頼りに探すから。』
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