赤司との約束通り出展する作品ができた、と言う話を聞いて、皆がぞろぞろと揃いも揃って体育館へ向かうのはおかしく思えた。
共通の話題はバスケのみで、他のことはばらばらだった自分達が、一人の女の子が描く絵に動かされるのだ。
「体育館に来てって……」
「体育館の絵を描いたんじゃないか?」
「僕らを呼び出したと言うことは、僕らを描いてくれているかもしれませんね」
そう言えば、と青峰はふと窓から見える体育館を見下ろした。
あのとき、体育館に一人の人物が立っている絵を描いている彼女を見たことがある。結局あの人物が誰なのかは教えてもらえなかったが。
ということは、あの絵が完成したのだろうか。
二階から一階へ、西階段を通って体育館を目指す。
そこに風は、吹いていなかった。
「あ、来てくれたんですね」
体育館に入って声のする方を見ると、名前が前方にあるステージに腰掛けて足をぶらぶらと揺らしていた。
名前の後ろに置いているのが絵なのだろう。裏向けなので絵は見えないが、あれはキャンバスだ。
「それか」
「結構大きいねー」
「早く見たいっスー!」
黄瀬が体でワクワクしているのを表現して、誰かが吹き出した音が聞こえた。
名前はキャンバスを大事そうに抱き抱えたあと、みんなに見えるように、ステージに立て掛けるように立たせた。
「タイトルは『奇跡』です」
風がふわりと吹いて、絵の中に入り込んでいく。
絵の中の体育館に入った風はスリーポイントシュートを決めようとしている人物の髪を揺らしたように思えた。
この人物は、キセキの世代である自分たちの誰でも無かった。
でもこの体育館の至るところに自分たちはいた。少しだけ薄汚れた壁に、汗の臭い。片付け忘れたバスケットボール。直接描いてあるわけではないが、自分たちのいた軌跡が、しっかりと描き残されている。
「ってことは、こいつは……」
青峰が口を開く。いつの間にか目の前にいなくなっていた彼女が、コートの隅の方で絵の人物と同じようにスリーポイントシュートを放とうとしていた。
「名前か」
ボールは弧を描き、だが力が足りずにゴールに届くことなく地面に落ちた。
楽しそうにボールを拾いに行き、振り返った彼女は、明るい笑顔だった。
「実際はできないんですけど、絵の中なら、みなさんとバスケができる、そんな奇跡です」
「じゃあ、それを実際できるようになればいいんじゃねーか?」
その方がもっと楽しいだろ、と笑い返してやれば、名前は青峰にパスを出す。青峰は片手で受けとると早いドリブルで切り込み、ひょい、とスリーポイントラインからゴールを決めた。
笑う二人を見ながら、紫原がぽつりと呟く。
「この絵のフォームって、峰ちん?」
「確かに、この絵と一緒っスもんね」
「そう言えばそうですね」
「なんだ、今気づいたのか」
自分は気づいていたと得意気に笑う赤司に、あっ!と声を上げる桃井。
「待って!青峰くん適当なフォーム教えようとしてる!」
「スリーポイントなら俺の分野だろう。俺に聞けば良いものを」
それでは人事を尽くしたとは言えないのだよ、と下がってきた眼鏡を直しながら緑間が言えば、じゃあ教えにいきますか、と黒子も楽しそうに笑う。
「すげーよ」
「何がですか?」
「俺のことだいぶ評価してくれたけどよ、」
「はい」
「おめーも、原石だとは思ってたけど、磨けば光ったじゃねーか」
「……職業病って、移るんですね」
「ばーか」
七人目の輝石
(七人目は芸術分野へその名を轟かせた)