とりあえず急いで男だと思っていた『彼女』を追いかけると、進路妨害をしてしまっているので、じとっとした目で見られた。
本当に女かどうかを見極める。っていうか見極めが必要なぐらいその子は分からなかった。だって一番分かりやすい胸が、ない。ほんと、失礼だと思うけど、ない。これが女の子だったら、その、貧乳ってことになる。ごめんなさい。

「何?」

声は、高くないけど男よりはずいぶん高いと思う。

「あの、それ重そうだけど、手伝おっか?」
「大丈、夫」
「大丈夫そうじゃねーって。ほら、貸せよ」
「……っていうか、誰?」

自己紹介がまだだったと頭をかく。いつもの人当たりの良い笑顔を向けてパッと手を差し出した。

「俺、一回生の高尾和成!よろしくな!」
「あー、噂はよく聞くよ。一回生の名字名前です。まぁ、よろしく」

噂ってなんのことだ、なんて思いながらも、とりあえず名前が分かった。名前ちゃん?名前くん?いや、名前ちゃんだろ、どう考えても。っていうか名字って名字に聞き覚えがあった。目の前の名前の顔を見る。ひーちゃんと同じで、誰かと似ているって思ったら、

「あっ!名字って、名字花梨か!」
「んー?呼んだかにゃー?」

後ろから声だけで女性と分かる可愛らしい声が聞こえて振り返る。と、そこには同じ学部の花梨がいた。

「やっぱな!そうだよな!」
「その子は私のかわいーい双子の妹ちゃんだよー?ナンパなら私を通してもらわないと困りますなぁ」

妹。よし、女子決定。しかも双子かよ。そこまで似てないからおそらく二卵性なんだろうけど、それにしては似ているような気も。まぁ、姉妹ならしょうがない。

「ってか花梨、そのかっこ何だよ?」
「今からライブだよ!派手なかっこは標準装備でしょ?」

確かに、名前と違って花梨は秋なのにビジュアルを意識して股下10センチぐらいの短いショートパンツ履いてる。ブーツは履いているが、寒そうだ。上の服もなんか派手なジャケットで、茶髪だからかすごく今時の女の子って感じがした。

「そっか!お前ボーカルだもんな!あ、じゃあ名前ちゃんは?」
「私は、ベース。楽器はもうすでに持って行ってあるから…」
「っていうか!持つよ!」
「名前、甘えときなさい」
「…分かった」

なんだなんだ、ツンデレか?絡む奴絡む奴ツンデレで困る。かーわいっ、と言いながら頭を撫でたらものすごく微妙な顔をして、照れられた。










「じゃ、頑張ってな!客席から見とくぜ!」

めっちゃ重いアンプをどかっと部屋のすみに置くと、バイバイと手を振った。花梨たちは校内に設けられた特設ライブ会場で本格的にやるみたいで、しかも後々知ったことだが、学内でも人気のバンドらしく、軽くアイドルグループ状態なんだとか。ここに来るまでにサインねだられたのが証拠だろう。
立ち去ろうとして、後ろから花梨の明るい声が響いた。

「たーかーおー!」
「ん?」
「私の歌、ちゃーんと聞いてねー!」

人当たりのよさそうな笑顔を向けてくる花梨に、何故かおろおろと慌て出す名前。花梨の服の裾をつかんでブンブンと首を振っている名前がめっちゃかわいい。

「任せろ!ちゃーんと聞くし、名前ちゃんもしっかり見とくぜ!」
「みっ、見なくて良いし聞かなくて良い!」

名前ちゃんの照れを堪能しながら、バタバタと忙しくなり出したので、もう一度手を振ってその場を後にした。





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(良かったね、聞いてくれるし、見てくれるって!)
(お姉ちゃんっ!)
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