下駄箱を開けると、最近毎日入っているかわいらしい手紙が入っていて、これがラブレターならモテモテじゃないか、なんて思いながら、一応その可能性を見越して開けてみるが、大丈夫、いつもの脅しだけだ。
『近づくな』
たった一言。それだけだったが、朝から気分が少しだけ落ち込んだ。こんな気分では絵が描けないではないか、と呆れてため息をつく名前。
覚悟はしていた。あんな人気者な彼らと話すようになったのだ。女の嫉妬とは怖い。まぁよく学園ドラマであるような呼び出して痛め付けられるなんてことはなかったから、犯人の顔も特定できないのである意味こちらから意識することもなくて多少は楽だ。
(今日は、まぁ、部活見に行くけど、いいか)
顔も見せないような奴の言うことは聞かなくてもいい、と一人決め、部活に行くことを決めた。そんなときだった。
「名前さん」
あぁ、そうだ。忘れてた。
「今日の体育一緒にいこー」
『友人』という肩書きのクラスメイトが肩を叩く。
紫原がかばってくれたあのときからすっかり手出ししてこなくなって、失念していた。暴力はないものの、ねちねちと文句をいってくる、ある意味勇気のない『友人』だ。
実害がないから黙っていた存在だ。ある日赤司が何かあれば言え、と遠回しに言われたのを思い出したが、何度でも言おう、実害がない。
「ん、いーよ」
「じゃあ後でね」
ただいつもと違ったのは彼女たちの何かを恐れているような目。どうしたのだろう、なんて心配してやれるのだから、自分はとんでもないお人好しかもしれない。
(とりあえず、昼は青峰、先輩のとこか)
昼一緒に食うぞ、という約束があったことを思いだし、昼を楽しみに教室へ向かった。
「なー」
「うん?」
「その卵焼き、くれ」
「じゃあそのサンドイッチくれ」
「敬語」
「………サンドイッチよこせなさい」
「ちげーだろ」
「ぶー」
青峰の口のなかに卵焼きを勢いよくつっこむと、げほげほと咳き込んだ。汚いですよと言ってやれば、てめーのせいだろ!と怒鳴り付けられる。途中桃井や黄瀬なんかも屋上ランチタイムに参加し、賑やかになっていった。
「ん?」
黄瀬がふとこちらを見る。正確にはこちらの膝の上に置いていた携帯だ。
「携帯、光ってるっスよー」
「あー」
メールだ。見てみると、今朝の『友人』からで。しょーがないな、と立ち上がった。
「どこ行くんスか?」
「便所ー」
「ちょっと!名前ちゃん!女の子なんだからもっと丁寧な言い方を……!」
「んー……お便所?」
「こら!」
行ってきまーす、とヒラヒラ手を振って屋上の階段を降りていく。ご丁寧に、下の方で待っていてくれた。
「あ、の」
「んー?」
「………」
いつもより歯切れが悪い『友人』に、今日はいつもと違うことが起こるんだな、と僅かに嫌な予感を覚えた。
「あれは……」
三階の図書室を出たところから体育館へ向かうための渡り廊下が見えるのだが、そこに見知らぬ女子生徒に手を引かれて歩いている名前が見えた。
ちなみにその向かっている先には、緑間と同じ学年の名も知らない女子生徒たちがいる。
余談ではあるが、3ポイントシュートを入れるというのは目で距離感を図る必要があり、眼鏡をかけて入るもののそれなりに目は良い方だ。
要するに、ここから名前の表情をなんとなくだが見ることができた。
(穏便なことでは無さそうだな)
ふと後ろを振り返れば、同じように名前を見ている紫原がいた。紫原も緑間に気づいたようでお菓子をもったままこちらに向かってくる。
「どう思う」
「んー、実は前にもあったんだけどねー」
「なぜ黙っていた」
「名前ちんがみんなに言ってないってことは、言わないって思ったからでしょー。桃ちんの時もそうだったし。だから」
「赤司に知らせるか」
「うんー。今日は二年生もいるみたいだし」
今の時間なら生徒会室にいるはずだ、と走りはしないもののいつもよりも随分早いテンポで足を動かした。
たった一つの恐れ
(赤ちん!)
(名字が、)
(分かっている。緑間、紫原、行くぞ)