食べ終わったお菓子の袋を時々他のクラスに立ち寄って捨てながら、次の移動教室先である体育館に向かう。体育なんて面倒なだけだが、成績を悪くすれば赤司に怒られるので、紫原からすればそっちの方が嫌だ。
(あれー)
ごくり、とまいう棒を飲み込む。あの小さくて黒い髪の女の子は、見間違えようがない、名前だ。友達なのか、数人の女子生徒と一緒に体育館の方へ向かっているようだった。もともと気遣いというものが苦手な紫原は後ろから声をかける。
「名前ちんー」
「え、あ、紫原先輩」
正直、声をかけておいて自分が驚いた。それは名前がすごく、すごくわずかだけどホッとした顔をしたからだ。その時、勝手に口が動いたことにも、驚いた。
「あ、さっき、名前ちん探してた先生がいたよー。部活のことで急いでたみたいだったし、早く行けばー?」
よくもまあここまで嘘がペラペラと口から出るものだ、と思った。
「じゃあ行ってきなよ名前!」
「そーそー、じゃあ先に体育行ってるねー」
バイバイ、と手を振って去っていく女子生徒たちを見送ったあと、思ったことを隣に佇む名前に聞いてみた。素直に思ったことを、だ。
「今の、ともだち?」
「知ってて嘘ついたんじゃないんですか?」
「んーん、なんとなくそうかなーって」
桃井の時にも似たようなことがあったから、もしかしたら、なんて思っていたが、本当だったとは。
「紫原先輩って、結構鋭いんですね」
「誉めてるー?」
「誉めてますよ」
何となく行き場をなくした自分達が下した結論。それは、
「さぼろっか」
「サボりましょうか」
ホントの友達
(少なくとも見ず知らずのヒトのプライドなんかよりも、隣に立ってるこの子の方が大事。)