あれからと言うもの、意識するようにすれば彼女と学校ですれ違う機会はたくさんあった。彼女の学年は一つ下なので会うのはもっぱら廊下が多かったが、図書室にもよく出没しているようで、必然的に黒子と緑間が仲良くなるスピードが早かった。
「おはようございます」
昼休み。先に座って本を読んでいた彼女の前の椅子を引き、座る。すると彼女はぺこりと頭を下げた。
「それは」
「はい、今週中に読んで渡さないと眼鏡のラッキーアイテム運搬係にされるので」
ちっ、と舌打ちをする彼女は怖いもの知らずなのだろうか。
ということで失礼します、と頭を下げて本に集中する彼女。黙々と文字を追う目は普段と変わらないようでイキイキしているように見える。こんな視線、自分達には決して向けてくれないんだろうな、なんて考えてすぐに自分の考えに笑う。
(嫉妬、ですか)
本に嫉妬するのも馬鹿げているが、そういう彼女に惹かれたのは自分達だ。
体育会系にはなれない、絵や本が大好きな名字名前というマイペースで自分の世界を持つ人。絵を通して彼女と出会い、絵を通して彼女に惹かれた。あの『風』を感じさせてくれる絵を見たことがあるのは自分だけなのだ、と思えば、キセキの世代の中でも優越感を感じることができる。
「名字さん」
「何ですか」
「今度、名字さんの絵、見せてくださいね」
無言で頷いて、また本に集中し始める彼女に、もう独占欲が湧くことはなく。
こんなゆっくりした時間が続けばいいと、自分も本に目を落とした。
本の虫
(彼女との沈黙は、いつだって心地好い。)