すっかり元気になった朝。昨日丸一日寝ていたせいか体の筋肉が固まっているような気がする。昨日とは違い快適にリビングまで歩いていくと、台所に立つナマエさんが見えた。自分のために朝早くからご飯を作ってくれているところは、もうお嫁さんみたいだ。

(あ、今の笑顔……)

味見をするために小皿からスープを飲んだナマエさんの表情が、ふんわりと和らぐ。
何なんスか、その笑顔。まるで恋する乙女っスよ。好きな人に料理食べてもらおうとかしてる顔っスよ。
そう思ってしまうのは、もちろん自分の思い込みだと分かっている。良い様に考えてしまうのが人間だ。ここで悶々と考える時間が惜しいので、ナマエさんの後ろに立つ。くるりと振り返ったナマエさんは朝から心臓に悪い強烈に素敵な笑顔を向けてくれた。

「おはよう」
「おはよーっス」

手伝うっスよ、なんてカッコつけて料理を運ぶことしかないけどせめてもとそれだけをやる。コンソメスープの良い香りがした。

「今日と明日、明後日ぐらいまで休みをもらったから」
「なんでっスか?」
「最近非常出勤が多かったから、無理言ったら休ませてもらえたの」

だから一緒にいられるよ、なんて。この人は自分をキュン死にさせる気なのだろうか。

「じゃあ外出しません?」
「いいけど、熱は大丈夫?」
「このとーり!元気っス!」

モデルで鍛えた笑顔をナマエさんに向ける。これでナマエさんも自分のことを好きに、なんて簡単にはいかなかった。ナマエさんの眉間にシワがよる。

「その顔、やめて」
「ひどいっスよー。俺元々この顔なんスから」
「違うわ」

ぺち、と頬を両手で挟まれる。ナマエさんの手は冷たく感じた。

「作って笑っているか、なんてすぐに分かるわ。無理はしないで」

正直、無理なんてしてなかった。この笑顔はナマエさんに良く見てもらおうとモデル笑顔を、万人受けする笑顔を向けたのに。この人は気づいた。偽物だと。

「ほんと、すげー」
「何が?」
「何でもないっスよ。そーそー、体調は大丈夫っていうか、逆にずっと塞ぎ混んでると余計にしんどくなるかもしんないんで、そうっスね……二人でぶらり町歩きデート、なんてどうっスか?」
「分かったわ」

二人っきりでデートの約束を取り付け、早く行くためにあと少しご飯ができる時間までに着替えようと、軽い足取りで部屋に戻った。





「最悪……」

少し大型のショッピングモールのワンフロアに、大勢の人が集められていた。何かのイベントだと思いたかったし、突きつけられている銃口はおもちゃだと信じたかった。なのに、隣に居るナマエさんは『最悪だ』と悪態をつく。と言うことは、きっとこれは全て本当なんだ。

「青き正常なる世界のために!」

どこのキャッチフレーズだとつっこみたくなるセリフを高らかに叫ぶのは、ナマエさんが言う、コーディネイターを毛嫌いする『ブルーコスモス』の人たちだ。

「本当ならお前ら全員今ここで殺すところだが、俺たちが今回狙う奴はザフト軍のトップだ!人質としてトップと引き替えにするつもりだが、もし変なマネすればいつでも撃ち殺すからな!」

小さな子供は怯え、怒鳴られれば泣き出す。それがブルーコスモスの人たちをいらつかせる。

「ナマエさん」
「大丈夫」
「?」
「貴方は、守るわ。絶対、元の世界に戻るまで」

いつの間にか震えていた自分の手を握り替えしてくれたナマエさん。
自分が守ると言いたかったけど、見ればまっすぐにブルーコスモスを見つめている、自分の知らない軍人の顔をしたナマエさんがいた。

「少し、協力して。今だけ壁になって」
「は、い」

ナマエさんがこっそり自分の後ろに隠れる。鞄から小さなプラスチックチューブがかかっているネックレスを取り出すと、タオルに包んで、チューブを叩き割った。

「何スかそれ」
「軍にエマージェンシーを出したわ。今、隊長にもメールを打ったから、すぐ対策が来るはず」

ナマエさんの紅い目が、鈍く光る。
その時、嫌な音が聞こえた。
銃声だ。

「え、」
「まさかっ」

流れる血。一人の女性が、子供をかばって撃たれたんだ。

「止めなさい!」

ナマエさんの声が響く。

「何だてめぇ。俺たちに交渉できんのは軍の人間だけだぞ」
「その軍人が言います。民間人に手を出すのは止めなさい」

ナマエさんの一言に、ざわざわと周りが騒ぎ出す。それはブルーコスモスも同じのようだ。

「先の大戦の所属は?」
「……クルーゼ隊よ」

『クルーゼ隊』。自分には聞き覚えのない言葉だが、民間人も含め十分な破壊力を持ってブルーコスモスにダメージを与えたようだ。

「クルーゼ隊って、エリートじゃないか」
「ってことは、ザフトレッド…?」
「助かるかもしれないぞ…」

(ナマエさんほんとにエリートだったんスね)





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(人々を守って、敵と対峙して、どこまでも『軍人』を貫くナマエさんが遠くに感じた)
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