ティエドール元帥に連れられて来たこの森には、ある噂が飛び交っていた。

あの黒き森には炎を操り、氷で生き物を貫き、風に乗って移動する、魔女がいると。子供が森に入りこまないようにする脅し文句なのだろうが、教団はそこに目をつけた。





「で、その魔女の家がここなのかよ」
「なんか、普通だねぇ」
「………」

本当に普通の家だった。ぐるりと見渡しても、これと言った特徴はない。違和感があるとしたら普通の家が、こんな森の中に一つだけ建っていることだろうか。
中から人の気配はしない。アクマにやられたか、それともたまたま不在か。どちらにしろ探さなくては行けない。

「ただのおとぎ話じゃ無さそうだしねぇ」
「何人も焼かれたんだろ?アクマのせいか、そいつのせいか」
「でもあの死体、アクマだったよねぇ。全部」
「ってことは、そいつは適合者」
「ということだね。あぁ、きっと彼女だ」

森をずっと歩いた湖の辺に、一人の女の子が洗濯をしていた。まだこの季節の水は冷たいだろう。なのに黙々と洗濯をしている彼女を見て、ティエドールは微笑んでいた。ティエドールは神田にそこにいるように言うと、落ち着いた足取りで女の子に近付いた。

「こんにちは」

ティエドールが声をかけると、女の子はビクッと肩を震わせて振り返る。

「あ、あ、」
「うん?」
「と、討伐隊の方ですか?その、魔女狩りの」

こんな女の子一人を取り押さえるのにそんなものまで結成されたのか、と呆れる。まあ睨み殺す勢いで後ろに立つ神田を見たら、そう疑っても仕方ないことかもしれない。

「いや、むしろ逆かもしれないんだよ」
「逆……?」
「そう、私たちも魔法使いかもしれなくてね。仲間がいると聞いてやってきたんだ」

仲間。そう聞いて女の子の表情がとたんに明るくなる。

「そ、そうなのですかっ?」
「うん、あ、あの後ろの男の子は魔法使いじゃなくてここまで私を送ってくれた凄腕の剣士なんだよ」
「お若いのに、すごいですね」

女の子の視線が神田に向けられて、にこりと微笑みかける。安心してくれたか、と判断すると神田を呼び寄せた。

「私はティエドール。この子がユウだ」










急に現れた二人は、確かに持つオーラが他の人とは違った。実際にティエドールさんにはアーティスティックな魔法を見せてもらったし、ユウは同い年で本当にすごい剣士さんだった。

「なるほど、村の人に襲いかかってる覚えはないんだね?」
「はい、でも目撃者はみんな私の姿をしていたと言って……一人だけ、友達がいるんですけど、その子は庇ってくれて、街に行けない私の代わりに買い物を……」
「うーん、友達がいるのか」

ティエドールさんは困ったなぁ、と苦笑いをした。

「僕たちは魔法を使って悪い奴らをこらしめるために来たんだけどねー。基地みたいなところにみんな集まってるんだ。君も仲間になってくれるなら一緒に行こうと思ったんだけど、友達がいると離れにくいねー」
「それ、は」

土地には未練なんてない。何度も殺されそうになって、逃げたり、気付いたら討伐隊の人を焼き殺してして、そんな怖い魔法を役に立てるようにできるのなら、この自分を嫌う土地から離れられるなら、こんなに嬉しいことはない。けど、過ぎるのは一人の友の笑顔。小さい頃から仲良しで、普通なら大人の悪評に流されて私を嫌いになっても良さそうなのに、ずっと友達でいてくれた人。

「だよねー」
「……はい」
「その力の暴走で、そいつを殺すかも知れねぇんだぞ?」

剣士ことユウがティエドールさんの後ろからある意味恐れていた可能性を告げる。ティエドールさんが咎めるようにユウの名前を呼んだけど、それは事実だ。

「わ、かりました。一緒に、行きます」

ユウが示した事実だけが唯一恐れたことだったから、頷く。その時、

「ナマエー!」

森の遠くから聞こえてきた声。その声は、間違いない、友達のものだ。

「んー、あー、いたいた。あれ?お客さん?」
「えっと、そうなの。なんか、魔法が使える人たちらしくて…私の仲間だって」
「へー。そういう詐欺じゃないでしょうね?」
「ち、違うよ!」
「…ま、ナマエが決めたならいいけど…。このおじいさんはともかく、あの仏頂面、信用できないのよ」
「てめぇ…」

にらみ合うユウと友達に、なだめるティエドール。思わずこぼれた笑みに、ユウが目を見開く。『お前って、そんな風に笑えるんだな』と呟くように言えば、友達が失礼でしょナマエに謝りなさい!と叫ぶ。

「ナマエちゃんのことが大切なんだねー」
「当たり前でしょ!」
「僕たちも、ちゃんと、大切にするから。僕たちの家族に加えてもいいかな?」

家族。

「家族に、なれるの?」

ティエドールに、ユウに向かって言えば、振り返って、二人とも頷いてくれた。

「しょーがないわね」
「あ、」
「いってらっしゃい。私も、いつか貴方の家族になれるように、頑張るわ」

「いって、きますっ…」









この世界に、ひとつ、大切なものが増えました。





(『家族』という絆が、できました。)
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