この革靴も随分すりへったなぁ、と自分の足元を見ながら歩く。高校に入学してはや三年目の冬。革靴は一度買い換えた。受験真っ盛りの私たちは学校に残って勉強をしているわけだが、勉強して帰ろうとした時間でも体育館の横を通れば聞こえてくるスキール音に、隣を歩く彼氏こと今吉がわずかに反応しているのが分かる。ついこの間までバスケ部の主将として心血を注いできたのだから、はいそうですかと部活を忘れられるものではないのだろう。

「さみしい?」

完全に体育館に顔を向けている今吉に声をかける。するとうーん、と曖昧な返事をされた。

「いや、寂しいでしょ?」
「せやねんけど。なんかなー」

勉強もしっかり切り替えて出来ていると思っていたが、どうやら勉強の時だけだったようで、まだ負けたことを引きずっているようだ。

「あ、」
「どうしたの?」
「猫や。あそこ」

見ると二匹の猫が仲良く道路を渡っている。ぴったりと寄り添って歩く二匹は夫婦なんだろうか、可愛らしい。無事車に引かれることもなく渡り終えた二匹は尻尾をすりすりと絡めあったりして、なんとなく変な気分になってくる。ちらりと今吉を見てみると、いつものポーカーフェイスだ。

「かわいいねー」
「あれ?猫派やった?」
「猫派だよ。犬苦手だもん」

ふーん、と自分から聞いておいて興味がなさそうな今吉に、何なんだこいつはと呆れたように笑う。
猫は渡り終えた歩道でまだいちゃいちゃしている。ゴロゴロと頬を擦り寄せて、鼻先をツンツンと触れさせあっているのはまるで、

「キスしてるみたい」

ちゅー、なんて擬音が聞こえてきそうだ。
しゃがみこんでその様子を微笑ましく見ていると、今吉も同じようにしゃがみこむ。座ってもやはり体が大きい分、自分よりも高い位置に頭があって、やっぱり男の子だなー、とぼんやり考えた。
その時、ふと目の前に影が落ちる。覗き込むようにして下から今吉の唇が自分のを押し上げて、びっくりしてそのまま後ろに尻餅をついて倒れてしまった。

「な、なに?急に」
「さっきから猫見ては発情してワシ見て…誘ってたんやろ?」
「はつ…っ?!してないし!」

ブンブンと首を振って言えば、まぁええわ、と今吉が立ち上がり、手を差し出してきた。

「受験期間とは言え、せっかく部活終わって名前と居られるようになったんや」

手を取ればすごく強い力で引き上げられ、ぼすっと今吉の胸にぶつかった。

「今までほったらかしにしてもーた埋め合わせ、させてや?」




掴んだのは部活じゃなくて、お前





いつでも人が通るこんな道のど真ん中で何度も何度もキスするもんだから、恥ずかしくなって文句を言えば、似たようなことしとるやん、と猫を見る今吉。

(ちょ、あれ、猫!)
(………にゃー)
(え、違うでしょ?!)
((やっと届いたんや。離すかアホ))
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