第一次戦闘配備。それは月艦隊との合流を前にした、『敵』の最後とも言える襲撃を知らせる物だろう。キラとフレイの会話を遮断するように鳴り響いたそれに、キラは自身の手を握りしめた。
「あとちょっとで合流なのに………」
フレイさえも心を許したコーディネイターの友達。その人が、おそらくこの戦闘に参加してくるのだ。
撃ちたくはない。でも撃たなきゃいけないから。私に撃たせないで。
そういった彼女の言葉を、思い出す。今どんな思いで彼女はここに向かっているのだろうか。そう思考に沈もうとしていたときだった。避難民の女の子が、警報を聞いて慌てたのか、走っているところをぶつかってしまった。
「ごめん!大丈夫?」
助け起こそうと手を差し出したキラより先に、フレイがにっこりと笑いかけながら手を伸ばして女の子を抱き起こした。
「ごめんね、お兄ちゃん急いでるから」
いつものフレイトは違う、こういうときならヒステリックに怒りそうな彼女が、女の子を安心させようと優しく語りかけていた。
「また戦争だけど、大丈夫。このお兄ちゃんが戦って守ってくれるからね」
「ほんとぉ?」
「うん、悪い奴はみーんなやっつけてくれるんだよ」
悪い奴。
それに、ナマエは含まれているのだろうか。
優しく微笑んでいるフレイから、その感情は一切読み取れない。それは、ナマエを悪役として見ていないというより、本当にどう思っているのか分からなかった。
「キラ!」
サイの呼ぶ声が聞こえて、キラは走り出した。
そうだ、今はフレイが言うとおり、自分がこの艦を守らなくちゃいけないんだ。
コックピットへ乗り込むと、ミリアリアの管制する声が聞こえてきた。
《キラ!ザフトはローラシア級が1、デュエル、バスター、ブリッツ、あと…データにない機体が!》
画面に映るのはUnknownの文字。ミリアリアは気づいていないのだろうか。それとも気づかないふりをしているのか。ハキハキとした口調で状況を伝えていく彼女に、キラはぐっと操縦桿を握りしめた。
「ナマエ…」
君が撃たせないでというのなら、その願いを叶えよう。
ミラージュコロイドを展開させたニコルだが、さすがは地球軍が作ったモビルスーツと言ったところか、対空榴散弾頭を広域に打ち込むことでブリッツの居場所が特定された。
《これはもともとそちらの機体でしたね。弱点もよくご存じだ!》
珍しく好戦的なニコルのセリフが通信に響く。ナマエは初めて乗るセルシウスの感触に、不謹慎にもゾクゾクしていた。
(速い!)
ザフトの機体で最速の方ではないだろうか、この機体はそう思えるほどの速さを持っていた。
《ナマエはディアッカとあのオレンジ色を狙え。俺はストライクをやる》
《OK》
「ディアッカ、お願いだから巻き込んで撃たないで」
《それはナマエのかわし方次第ってことで》
接近と遠距離の入れ替わるタイミングは難しいが、ディアッカとはイザークの癇癪をなだめた仲だ。きっとできる。と少しジョークを入れてみたりと、目の前に現れたストライクから気をそらすことに必死だった。
(キラ、イザーク様は強いわ)
死なないで。
そう思うだけでもし目の前に立ちふさがれば殺そうとするのだ。
突っ込んできたメビウスにサーベルを抜く。このパイロットももしかしたら一度あの艦内で会っているのかもしれない。やはりあの艦で仲直りなどするのではなかった、と後悔したがもう遅い。エンジンを噴かし、メビウスに回り込んで斬りかかったが、さすがにあの小型機の方が速かった。
「ディアッカ!」
《分かってる、よっと!》
回り込んで作った視覚に居たディアッカがすでに照準を合わせて構えている。これでいただいたかと思ったが、さすがに敵もあっさり自分の命を差し出してくれたりはしなかった。
すれ違いざまに放たれるガンバレルの砲弾だが、フェイズシフト装甲の前に弾かれて終わる。甘い、とフットペダルを踏み込み一瞬にして距離を詰めたときだった。
寒気がした。
嫌な寒気だ。
一瞬脳裏を過ぎったのは、ラスティの笑顔。
制動を掛け、カメラを切り替えキラとイザークが交戦しているであろう方角を見ると、ぴくりとも動かないデュエルの姿があった。