休日の練習はいくら好きな部活に入っていても、少しばかりめんどくさいと感じてしまうのは遊び盛りの中学生ならば仕方ないのだが、この人たちからしてみればバスケも遊びの一環なのか昼休みもシュート練習や1on1をし始めないので、いい加減休憩時間は休憩しろ、と赤司が一喝した。
「黒子を見習え」
「黒子っちはへばってるだけじゃないっスかー」
「きーちゃん!テツくんをバカにしないで!」
「うるさいのだよ。休憩時間ぐらい静かにしろ」
「赤ちんお菓子食べていーい?」
思い思いに発言していくレギュラーメンバーたちの中に青峰がいない。授業をサボりすぎた罰トレなのだからしかたない。
ふわりと、体育館に風が流れ込んできて、倒れている黒子の前髪を揺らした。
「そう言えば、」
風を感じて思い出したのか、黒子が床から顔を上げる。
「この前、階段で何かすごい絵を見かけたんです」
「絵?」
「はい、絵を見た瞬間風が流れ込んできて……」
黒子の横にどっかりと座った黄瀬が、ピクリと眉を動かした。
「その絵、タイトルあったっスか?」
「タイトル……?なかったような……」
「あ、じゃあきっとこれっスよ!」
西階段の一階に落ちていたと説明しながら、今まですっかり忘れていた生徒手帳の中にある一枚のラベルを取り出した。
「ほら、タイトル『風』だし……」
「……名字、さん…この人が描いたんですね」
しみじみと呟く黒子の横から手が延びてきて、ラベルをさらっていく。さらった本人赤司とその横にいた緑間、紫原がラベルを注視した。
「あぁ、美術部の一年生だろ?名前だけなら知ってるよ」
「俺は一度だけ見たことがあるのだよ。黒い髪の小さな女子生徒だ」
「え、美術部の黒くてちっさい子ー?知ってるー。絵、掛けるの手伝ったしー」
口々に言い出すレギュラーメンバー。それが全て一人の女子生徒のことで、聞いていた桃井がクスクスと笑いだした。
「いいなー、私も会ってみたいかも!」
「1-Fにいるのは知っているけど…年下とはいえ他学年だ。押しかけるのはな…」
赤司が珍しく言いよどんでいると、やっと練習を終えて戻ってきた青峰が話に加わった。
「青峰君聞いてよ!みんな『名字名前』ちゃんっていう子の話で盛り上がってて、私も会ってみたいって話をしてたの。でも一年生らしくて、押しかけるのはちょっとね、って…」
桃井の遠回しの『青峰君も分からないから仲間だよね』という思いは、青峰の一言によって無残に打ち砕かれた。
「名字?押しかけるのが嫌なら呼び出せばいいんじゃねーの」
「え、でも…」
「ったく、しゃーねーな」
おもむろに携帯を取り出す青峰。しばらくいじっていたかと思うと、青峰は電話をかけ出した。
「おー、俺。学校いるだろ?今から体育館来いよ。は、呼び出しじゃねぇ。告白でもねーよ。調子のんな。じゃあな」
電話を切り、全員の注目を浴びて居心地が悪くなったのか青峰が頭をかく。ここは聞くしかないと幼馴染みの桃井がつばを飲んだ。
「えっと、今のは…?」
「はぁ?お前が呼べっつったんだろ。名字だよ」
えぇ?!
体育館にレギュラーとマネージャーの声が響く。
「だ、大ちゃんどうして知ってるの?!」
「まさか青峰君まで会っていたなんて…」
「電話番号交換してるとか…まさか、手、出したんスか?!」
「そんなにスタイルが良かった印象はないが…」
「えー、峰ちんさいてー」
「止めておけよ。お前が手を出すと、なんか、犯罪くさい」
「るせぇよ!」
繋がるピース
(共通の話題が、たった一人の女の子のお話。)