黒子ほどではないにしろ頻繁に図書館に通う緑間には、ちょっとした気になることがあった。最近読み出したシリーズものの小説。全部で十数巻あるのだが、自分が借りようとしている次の巻が必ず消えている。正しくは他の人が借りているのだが。

(名字名前、か……)

本の最後のページに誰が借りたか分かるように名前が記されていて、自分の名前は『名字名前』の後ろにいつもあった。ちなみにこのシリーズの小説だけでなく他の本でも度々同じようなことが起こり、逆ストーカーとでもいうのか、自分が読む本を先々に押さえられている。

(偶然なのだろうが……)

むしろ自分がストーカーをしているような気になってきたので、首をふった。
今日はシリーズものの8巻が読み終わったので返して続きを借りようと思っていたのだが、生憎9巻は例の彼女が持っているようで本棚に帰っていなかった。なので用済みだ、と割りきって図書館の貸し出しカウンターの横を通り、出ようとしたときだった。司書の先生が一人の生徒に声をかける。

「あら、名字さん。今週は返しに来るのが遅かったわねぇ」
「あー、すみません。部活で作品を完成させるのに忙しくて……」
「いいのよ、気にしないで。期限は破ってないんだから」

まさか、と振り返る。後ろ姿だけでは分からなかったが、特徴のないありきたりなセミロングの真っ黒な髪。こう言うと失礼だがモブキャラの一人だ。テレビのドラマで言うところの通行人Bだ。そんな『名字名前』から目を離すことが出来ずにいた。
この姿を忘れないでおこう、と。
もう一度見つけられるように、と。
予鈴が鳴り響く。ハッと我に返り、これでは自分がストーカーだ、と叱責すると図書館を後にした。




本経由ストーカー





(あれだけ特徴を見ていたのに、学年を確認するのを忘れていたのはバカだったのだよ。)




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