久々に帰ることが出来た自宅。一人暮らしならばなんら問題ないが、この家には自分がこれからもずっと伴侶となる相手と決めた相手、妻がいる。だから頻繁に帰りたいと思っても、今の世界の情勢がそうさせてくれない。自分が魔導院に残ると決めたのだから、途中で止めて彼女の元で普通の人間として生きるのもこれからする選択の一つだったが、前言撤回したら暫く口を聞いてもらえないだろうと言うことは分かっている。
「ただいま」
玄関を開けて中に入ると、パタパタとスリッパの音。現れたのは勿論愛しい彼女だ。
「クラサメさん、お帰りなさい」
「あぁ、怪我はないか?」
手土産もなく、帰ってきても彼女にしてやれることなどない。むしろ自分が帰ることで彼女の家事の量を増やしてしまうのだ。その事に気づいた最近になって、余計に家に帰りづらくなったとでも言えば良いのか。
「私は大丈夫です。怪我をしやすいのはクラサメさんの方でしょう?」
「指揮官は前線にでることはほとんどない。大丈夫だ。むしろ動かなさすぎて体が鈍ってしまいそうで怖いが…」
無言になっても笑顔で話を聞いてくれる彼女の手をそっと取る。彼女はきょとんとして自分を見てきた。
「ナマエ」
「はい」
「私は、お前の伴侶として、ふさわしいのか?」
告白したのは自分。
プロポーズしたのも、自分。
彼女を手に入れるために全て自分から動いたが、それは果たして意味があったのか。
彼女をこんなところで一人待ちぼうけをさせて。
怖い。
自分から聞いておいて、拒絶されるのが。
今、この瞬間が、死ぬことより怖いと思えた。
なのに、彼女は、自分の不安を吹き飛ばすように、くすくすと笑いだした。
「私を一人で待たせているから不安、ですか?」
「……あぁ」
おバカさんです、と唇を尖らせて拗ねたフリをする彼女に首をかしげる。間違ったことを言っただろうか。いや、少なくとも寂しいに決まっている。
「確かに、少しは寂しいですよ?」
「す、まない……」
「でもね、」
貴方の帰りを待つ時間は、
貴方を好きだと実感できる。
だから不安なんて感じなくて良いんです、と笑う彼女の感じさせた少しの寂しさを埋めるように、強く体を抱き締めた。