いつもはこんな風にこそこそ動いたりしないのだが、今日というこの日は何故か一人になりたかった。4限目が終わってすぐ、教室を出た。あそこにいれば少なくとも誰かに捕まるのは分かりきっている。一階西側の廊下を歩くと、あまり使われていないだろううっすら埃すら被っている階段があった。座るのは躊躇われたがこの様子だとどこまで上がっても埃の上に座ることに代わりないだろう。
黄瀬はため息をつきながら下から三段目に座った。

「疲れたっスー」

いつものように愛想を振り撒くのは慣れつつあったが、時々こうして逃げたくなるのだ。何故かは分からないけど。
ふと、流れ込んできた風が埃を巻き上げた。ぶ、と思わず口から息を吐く。買ってきたお昼はまだ袋を開けていないから、セーフだ。

「ん?」

ふわり、と風に乗ってきた一枚の紙切れ。真っ白なそれが自分の目の前に落ちる。手にとって見る価値などないことは分かっていたのに、埃が積もっていくそれを見ていたくなくて、助けた。

「か、ぜ……?」

拾い上げた紙の裏面。正確には真っ白な方が裏面なのだが、そこを見てみると何かの作品のタイトルと作者の名前が書かれていた。
癖の無さそうな字で、『風/名字名前』と。
パッと目の前を見てみると、美術部が描いたであろう油絵が掛けられていて、前だけじゃなく横にもある。そういえばこの校舎の階段には全て美術部の絵が飾ってあったな、と思い出した。自分の位置から見える絵は3つ。それのどれもがちゃんとタイトルと名前が明示されていて、もしかして遥か上から来たのか、なんてもう一度紙を見た。

(この前知り合いになった子たちに美術部がいたはずっス)

その子に渡せば良いだろう。今このラベルが外れている絵を探してもいいが、もし間違えてしまえばこの絵を描いた本人と間違えられた絵の人は嫌だろうから、余計なことはしない。
お腹は減っていたが、何となくその一枚の紙切れを、眺め続けていた。





ラベルと少年





(生徒手帳に挟んで、お昼を食べ終わる頃にはそんなことがあったなんて忘れていたんス。)




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