黄瀬涼太です。
ただいま11時を回っていますがまだ起きていません。
何故かというと……

「げほっ、あー……」

風邪を引きました。










ナマエさんは今日は早朝出勤みたいで、起こさずに出ていったのは良かったんだけど、薬もどこにあるのか分からないし、だいぶ辛い風邪みたいで体の節々が痛いから起き上がりたくてもできない。だから今日はひたすらしんどさと戦うことになった。家事はできないけど、お昼ご飯ぐらいは食べなきゃだめだと体を無理やり立ち上がらせ、体の骨が悲鳴をあげる。

「う、ぐ……」

これは重症っスね、と力なく笑いお昼も諦めようとしたときだった。ピンポーン、とチャイムがなる。昨日からソファーで寝ていたので、玄関のモニターが寝てても見える。視線だけをモニターへやると、ナマエさんだった。チャイムなんて鳴らさなくても、と思ったが解像度の良いモニターに映っているナマエさんは両手に大量の荷物を持っていて、肩でチャイムを押していた。開けられないのか、と昼御飯さえ諦めさせた体を無理やり起こして玄関へ行く。ドアを引くとナマエさんがいて『ありがとう』と申し訳なさそうに笑ったが、自分はそれどころじゃなかった。明るい太陽の光が目に飛び込んできて、強烈な目眩がする。やば、と思った頃には体は傾いていた。

「涼太っ!?」

流石軍人、と言うべきか。瞬間的にどちらが大切なのかを判断して、持っていた荷物を地面に落とすと倒れかけた自分を抱えてくれた。

「ど、どうしたの?何があったの?」
「か、風邪ひいたみたいっス……」

大したことはない、と伝えたかったのに『風邪』と聞いた瞬間焦り始めるナマエさん。逆に不思議に思っていたが、五分後にはその理由がはっきりした。





「えっと、次は……」

栄養価の高いご飯を食べさせてもらい、ソファーではなく柔らかい布団の上で寝かせられると、どこから持ってきたのだろう本を開きながら始終焦っているナマエさん。

「く、薬?」

そんなものない、とさらに慌てるナマエさんの代わりに、現状を説明しよう。
コーディネイターは病気にかかりにくく、16年間生きてきたなかで風邪をひいたことなんてないらしい。要するに、ナマエさんは風邪の看病をするのは初めてなんだそうだ。

「寝てるだけで直るっスよ〜……」
「そ、そっか………」

気疲れなのか、ふぅ、と息を吐いて看病するために持ってきたベッドの側の椅子に座るナマエさん。それでもやはり不安なのか先ほどから読んでいる本『看病の心得』を熟読する様子に、こんなに慌てているナマエさんは初めてだなー、とぼんやりした思考で思った。
ナマエさんの視線は未だに本に注がれていて、無意識のうちにベッドから手を伸ばしていた。

「え?」

手を握ると、ナマエさんがはっと自分を見てくれた。

「あ、大丈夫?何か困ったことあった?」
「その、本に…書いてなかったっスか?」

え、とさらに慌て出すナマエさんに、かわいいなーと思った時には、自分は行動に移していた。
握っていた手をぐいっと引っ張り、ナマエさんの体が自分の体に倒れ込む。いくら人間でも鍛えられた自分の体は女性一人分の重さにつぶされることはなく、でも思わず咳き込んでしまうとナマエさんは悪くないのに『ごめんなさい!』と謝ってきた。

「ん〜……」
「りょ、涼太?」
「…風邪の時は、人肌恋しくなるんスよ」
「あ、寒い?大丈夫?」

違うっス、とナマエさんを体に乗せたまま、ぎゅーっと抱きしめた。柔らかい髪の毛が首筋にかかってくすぐったい。頬をすり寄せるとナマエさんはワタワタと手を動かしていた。

「今日…仕事休んでほしいっス」
「この後の…?いいけど…」

ぐいっと体を横に倒して、ナマエさんと並ぶように寝転がる。逃げようとした彼女の体をぐっと抱きかかえる。

「逃がさないっスよ」
「涼太?本当に大丈夫?」
「ん……ナマエさんが、側にいてくれたら……大丈夫っス」

にこりと微笑みかけると観念したというようにナマエさんは息を吐いて、自分の体に腕を回してくれた。温かい腕が、自分の背中を擦る。すっと、眠気が襲ってきた。

「これでいい?」
「…うん…おち、つく………」

暖かい腕に、優しい匂いが、自分を包んでくれて、子供のようにナマエさんの体にすり寄って、意識を手放した。





For 7 days





(お疲れ様、涼太)
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